第10話 「初めてのお仕事」①

 知ってる、聞いたことある、そう自信満々に言うくせに、次の瞬間にはアレだよね、なんだっけ? と言い出すからナナツキは始末に負えない。

 さんざん悩んだ挙句、得意気な顔をしてこう言うのだ。

「思い出した。つまりはリサイクルね」

 「りさいくる」がどんなものかエンジュにはよくわからないが、その言葉の意味から推測する限りにおいては、それはやっぱりシーカーの仕事とは微妙に違うような気がする。

 しかしいちいち訂正するのも面倒臭かったので、

「そうそう。そんな感じそんな感じ」

 エンジュは適当に頷いてシーカーの説明を終えたのだった。

 ナナツキはそれを聞いて、

「ま、楽勝ねっ」

 と余裕をぶっこいていたがそれもわからなくはない。

 最初はあれほどぎこちなかったナナツキの動きが、油を飲んだ途端まるでウソのように自由自在に動けるようになっていた。その動きには不自然さの入る隙間もなく、上から外套を羽織って身体を隠せば完全に人間と見分けが付かない。

 これなら多少は役に立つかもしれない。エンジュはそう思い直した。

 とはいえ、いきなり「島」に連れて行くわけにはいかない。

 あそこは言うなれば戦場なのだ。

 そんなわけで、街にも戻らず翌日から早速特訓である。

 まずは脚付き四輪の運転をさせてみることにした。

 一通り運転方法を説明し、エンジュは後部の荷台に座ってナナツキの運転を見守る。

 滑り出しは上々だった。

 エンストすることもなく脚付き四輪はおっかなびっくり進み出す。

「おーっ。動いた動いた!」

 ナナツキは無邪気に歓声を上げ、徐々に脚付き四輪の速度を上げていく。鉄屑の丘の上を小気味良い速度で駆ける。

 実際、飲み込みは早かった。

 瓦礫と鉄屑が折り重なる丘の上の不整地でも平気な顔をして脚付き四輪を操っている。

 エンジュが褒めようとしたら、

「どうどう!? 私初めてにしては上手くない!?」

 自画自賛しやがった。

 さらに調子に乗ったナナツキは速度を上げて丘を下り始め、

「ちょっ、ちょっ、あぶっ、」

 エンジュが止める暇もなく片側の車輪が大きな瓦礫に乗り上げ、脚付き四輪はあっさりとひっくり返った。

「あ、」

 あ、じゃねえ! なんて叫ぶ余裕もなかった。死んだかと思った。

 エンジュの身体が鉄屑の中に墜落する前に、ナナツキに抱き締められるようにして庇われた。

 結果的にエンジュはかすり傷程度、ナナツキに至っては外套がボロボロになっただけで無傷だった。

 この事故のおかげで分かったことだが、ナナツキの身体はゆっくり触れると柔らかいのに、強い衝撃に対しては瞬間的に硬くなるという驚きの性質を持っていた。

 そんじょそこらの衝撃ではびくともしないほどの頑丈なやつだということはわかった。

 あと、脚付き四輪を運転させてはいけないことも。



 運転させるのは危険だということで、次は射撃をさせてみることにした。

 これができなければはっきり言ってお荷物でしかない。

 エンジュがそう精神的圧力をかけると、ナナツキは根拠もなく自信満々な顔をして、

「さっきはアレだったけど、今度こそ! 今度こそいいところをお見せするから!」

 そうは言いつつ、エンジュと頑なに目を合わせようとしなかったのをエンジュは見逃さなかった。

 エンジュ愛用の十二番径サボットスラグ銃をナナツキに渡す。

「こいつは、散弾じゃなくて大粒のサボットスラグ弾専用の銃。当たれば威力はでかいけど、有効射程距離が五十メートルほどしかないから。それ以上になるとまず当たらない」

「あ、これ! わかるかも! こうだよね!」

 ナナツキが華麗にスピンコックを決めた。

「おー! できた!」

「おぉ、予想外にうまい」

 エンジュも素直に驚いた。

「あれ狙えばいいんだよねっ」

 スピンコックが見事に決まって気分をよくしたナナツキは意気揚々とサボットスラグ銃を構える。狙いの先にあるのは、並べられた瓦礫の破片。

 距離は二十メートルくらいだから、まずは五発撃って三発でも当たればいい方かな、などとエンジュが思っていると、

 銃声。

 二十メートル先で破片が弾けた。

「やった! 当たった!? 当たったよね!」

「ほんとだ。いきなり当てた。まあでも一発だけなら偶然ってこともあるし、」

 装填。狙って、発砲。破片が吹っ飛んだ。

「また当たった! すごい! 私ってもしかして天才!?」

「……」

 エンジュは言葉もない。

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