最終話「ヒャクエングッズから逃れられると思うなよ」

「処刑?

 それは無理だね」


俺はアルフォンの前に進み出た。

死の宣告をしたにも関わらず、俺が少しも動じていないので、奴は明らかに動揺している。


「俺がさっき

 お前の体に水をまいたのは、

 消火のためだとでも思ったか?」

「何だと!?」

「知ってるよな?

 高位の魔法使いは、離れた場所から

 水を爆発させることができる。

 しかもここにいるのは、

 エスラーダ最強の魔法使いだ」


俺の視線に応えるように、フローラム執政官は両手のてのひらを、アルフォンに向けた。

さっきまでの疲れ果てた様子は消え失せ、その姿には力と自信に満ち溢れている。


「や・・・やめろ・・・」


アルフォンは自分の置かれた立場を悟ったようだ。

死の宣告をされたのは、自分のほうだったのだ。

エスラーダの人々や執政官にした仕打ちを思うと、もうちょっと痛めつけてやりたいところではあるが、こいつには今後、いろいろと白状してもらわなくてはならない。


「部下を武装解除させろ」


「く・・・」


アルフォンはついに観念し、部下たちに目配せすると、その場に座り込んだ。

衛兵たちはこの男との雇用関係が終了したことを悟ったのだろう。次々と剣を投げ捨てた。


「今度こそ、

 裁判に出廷してもらうぞ」


俺はアルフォンの両手を「結束バンド(100円)」で縛ったうえで、「シンプル革製首輪(100円)」を首に巻き、「犬用リードスライドストッパー付き(400円)」を取り付けた。


「ヒャクエングッズから逃れられると思うなよ。

 さあ、エスラーダまで散歩だ」


**********


エスラーダでは、町の全住民が俺たちを出迎えてくれた。

ケンイチがひと足先に町に戻り、執政官が無事に救出されたことを人々に伝えてくれたのだ。

ミリアンの祖父レバリス、格闘家のガイラス、道具屋のスロビーとミーちゃんは、大泣きして俺たちの帰還を喜んでくれた。

てっきり死んだと思っていた王国軍司令官のグレイドも、退院して現場に復帰していた。無愛想なのは相変わらずだが、凱旋パレードの先導を務めながら、俺たちのことを「英雄」として扱ってくれた。


フローラム執政官からは、報酬として何を望むかと聞かれた。


俺たちは相談したうえで、マロンの村の人々をエスラーダに呼び寄せ、「メイカーギルド」の本部を作る許可を得た。


メイカーギルドは「ものづくり」を愛する者たちのギルドだ。

俺が提供する100円グッズを参考にしながら、様々な工作機械を駆使して便利なものを試作し、それを独占すること無く人々に公開していく。

もはやメタルギルドによる制約は存在しない。

なにを作ろうと完全に自由だ。


マロンは村の仲間たちと協力しながら、クロスボウや水鉄砲を発展させ、エスラーダを外敵から守るための防衛システムづくりに挑戦した。再びメタルオークのような敵が襲ってきたとしても、今後は町に一歩も入れることなく撃退できるだろう。


ミリアンはマジックギルドで魔法を学びながら、メイカーギルドにアイデアを提供するようになった。おかげで冷暖房エアコンが完成し、ギルド本部は常に快適な温度が保たれるようになった。この設備は順次、一般家庭にも不急していく予定だ。


モエカはグレイドから王国軍の技術顧問に推薦された。王国軍はメタルギルドとの契約を打ち切り、剣術と魔法を組み合わせた新しい軍備体制に移行する計画らしい。


俺たちの活躍の噂は国王にも届いたようで、ついに王国の首都ファウエルから召喚状が届いた。国王が、いちどじっくり話をしてみたいとのことだった。もちろん断る理由はない。


出発の日には、フローラム執政官も立ち会いに来てくれた。


「ご覧ください。

 これが、メイカーギルドが生み出した

 100式自動走行車です!」


集まった聴衆の前で、俺は試作品を覆っていたベールをひっぺがした。


「おおおっ!」


歓声が上がった。

当然だ。

「100式自動走行車」は、俺が設計した、最高にクールなキャンピングカーだ。


火炎の魔法水を燃料にして駆動する魔法エンジンを搭載し、時速60Kmで悪路を走行できる。

航続距離は100km程度だが、魔法使いが搭乗していれば、走行中の燃料補給も可能だ。

キッチン、トイレ、シャワーのほか6人分のシートと寝台を装備しているので長旅でも安心。

ルームライト、ルームミラー、送風機、クッション、ゴミ箱、ドリンクホルダーなどは100円グッズでそろえているので、快適性も抜群だ。


「ミノルさん、凄いです!」


ミリアンは祖父にしばしの別れを告げると、まっさきに100式に乗り込み、助手席のシートに腰を下ろした。


「ミノル、

 運転、頼んだぞ!」


マロンも後部ドアのステップを登って搭乗した。ふかふかのシートの弾力を試すように、お尻でジャンプを楽しんでいる。


「ミノル、

 ラーメンとカレーは持った?」


モエカは大きな袋を両手で抱えながら登場した。中には様々な食材が入っているようだ。


「荷台に乗せたよ」

「よかった。

 チョコバーとポテトチップとうめえ棒は?」

「飽きるほどある」

「オッケー。

 準備完了!」


モエカは車体後部の荷台に袋をどかっと乗せると、マロンの隣りのシートに座った。

最近忙しくて、なかなか集まる機会が無かったが、やっぱりこのメンバーは落ち着く。

この新車が、まるで長年住んでいる自宅であるかのように感じた。


「それじゃあ、

 ちょっと王都まで行ってきます!」


俺はフローラム執政官に軽く会釈すると、運転席に座り、エンジンをかけた。


ドルゥン、ドルゥン・・・


心地よいエンジン音とともに、車体は振動を始めた。

長距離のドライブは初めてだが、この試作車両の様々な問題点が解決され、量産されるようになったら、この世界「グリンフェルト」は大きく変革を遂げるだろう。


「おい!

 俺を置いていく気か?」


どこからかケンイチが飛んできて、ダッシュボードの上に着地した。


「なんだ・・・

 まだ生きてたのか」

「生きてたのかじゃねえよ!

 だいたい話が違うじゃねえか!

 メタルギルドを倒したら

 元の体に戻れるんじゃなかったのか!」


そう通りだ。


俺もケンイチも、境遇は何も変わっていない。

アルフォンの悪事を食い止めることには成功したが、この身には何の変化も訪れなかった。

この世界を救って欲しいと大天使ザクウェルに頼まれてこの世界に召喚されてきたわけだが、この世界の危機は、まだ去っていないということなのだろう。


だが俺は、そんな状況を楽しんでいる自分に気づいた。


このあとどんな障害が待ち受けていようとも、こいつらと一緒なら突破できるだろう。

そしてそのあと、きっとみんなで笑い合える。

この人生・・・最高じゃないか。


俺はルームミラーで仲間たちの顔を確認すると、アクセルをいっぱいに踏み込んだ。


***** おしまい *****

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100円ファンタジア  ~100円グッズは剣よりも強し。魔法と組み合わせれば怪物よりも強し~ 東洋 打順 @dajun

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