第39話「そろそろ処刑を始めるとしよう」

バシャッ! 


俺は「水ふうせん(100円)」を次から次へと衛兵に投げつけた。

案の定、奴らは盾を前に差し出し、水風船はことごとく弾け散った。

だが、マロンがクロスボウで打ち出した、「試験管3本セット(100円)」に封入された火炎の魔法水が着弾すると、彼らの盾はメラメラと燃え上がった。


「やった!」


それもそのはず。

俺が投げつけた水風船に仕込まれていたのは水ではなく、「ライターオイル(100円)」だったからだ。

火炎の魔法によって引火したオイルは燃え続け、金属の盾の温度を上げていった。


「ぐあっ!」

「熱いっ!」


金属は熱伝導率が高い。

衛兵たちは、もはや自慢の盾を構えることができなくなっていた。


「えい、えいっ!」


さらに距離が近づいたところで、今度はミリアンの水鉄砲が、衛兵たちの頭部に向けて放たれた。

氷結の魔法水はフェイスシールドに命中するやいなや氷結し、奴らの視界を奪った。


「くそっ!」

「見えないっ!」


熱と氷の連続攻撃に混乱する4人の衛兵の間をすり抜け、アルフォンに向かって行ったのはモエカだった。


「アルフォン!」


モエカは走りながら剣を鞘から抜くと、全身をバネのように使い、敵に向けて全力で振り下ろした。


ガキッ!


アルフォンの盾が、モエカの剣を受け止めた。

両者の動きが止まる。


「ふん・・・

 なかなか、よい剣だな。

 だが、私の盾も特別なのでね」


「うあああああっ!」


モエカが剣を敵の盾に押し当てたまま雄叫びを上げたとき、ありえないことが起きた。

アルフォンの盾が真っ二つに割れたのだ。


「な、なにいっ!?」


世界中の金属製品を独占的に生産しているメタルギルドの、最高品質の盾が女性剣士の一撃で割られた。

その事実を認めることができず、動揺しているアルフォンに対し、モエカは躊躇することなく追撃を加えた。


「せいっ!」

キンッ!


次の瞬間、

モエカの剣は・・・敵の鎧の腹部に食い込んでいた。


「そんな・・・ばかな・・・」


アルフォンにとっては、もはや現実だとは信じられない状況だった。


よく見ると、剣と鎧が接している部分が、まるで溶鉱炉のように赤く発光している。

そうか、これが彼女の狙いだったのか!

俺はようやく状況を理解した。


モエカはミリアンに依頼して、シャンプーに火炎の呪文をかけていた。

攻撃の直前まで剣を鞘に収めていたのは、あの鞘の中にシャンプーが満たされていたからなのだ。

粘性の高いシャンプーが刃についた状態で攻撃を行えば、衝撃によって火炎の魔法が発動する。

高熱にさらされた敵の鎧は、融点に達してしまったのだ。


アルフォンはその場に崩れ落ちた。


「や・・・やった」


モエカは自分でも信じられない様子だった。

事前の実験もなしに、いちかばちかの勝負だったのだろう。


ミリアンの氷結攻撃に悩まされ、たまらずヘルメットをはずした衛兵たちも、雇用主の敗北を目の当たりにして戦闘意欲を失っていた。


「やったな!」

「ああ!」

「やったあ!」


俺たちはモエカのもとに集まり、肩を叩きあった。

戦いは終結したのだ。


俺は、いまだに燃え続けていたアルフォンの胴体にペットボトルの水をありったけぶっかけて鎮火すると、フローラム執政官のもとに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「・・・ありがとう」


手足を固定していた金具を外すと、執政官は優しく微笑んだ。

よかった。

無事なようだ。


「これをどうぞ」


彼女の体はまだ震えていたが、ミリアンに助けられながら治癒の魔法水を飲み干した。

執政官の顔に血の気が戻っていく様子を見て、俺たちはほっと胸をなでおろした。


「みんなも、怪我は無いか?」


俺が問いかけると、モエカ、マロン、ミリアンは頷いた。

みんな元気そうだ。


メタルギルド相手にここまで善戦するとは、俺たちかなりイケてるのではないか?

しかも誘拐されたエスラーダの執政官を救出したとなると、もはや英雄と言ってもいいのかもしれない。

俺は、今までの人生で感じたことのないほどの達成感を味わっていた。

日本でサラリーマン生活を続けていたら、一生かかっても、こんな気分になることはなかっただろう。

大天使ザクウェル、

俺を選んでくれてありがとう!


「そこまでだ!」


俺が悦に入っていると、突然、背後で声がした。

振り向くと、アルフォンが衛兵たちに支えられながら立ち上がっていた。

手で腹を押さえているが、命に別状は無かったようだ。

しかも、広間の左右の扉からドヤドヤと多数の衛兵たちがなだれこんできた。


「私に止めを刺さなかったのは失敗だったな。

 この鎧は特別だと言ったろう?

 くくく・・・。

 少々、名残惜しいが、

 そろそろ処刑を始めるとしよう」


アルフォンは痛みに顔を歪めながらも、嘲るような笑みを浮かべていた。


***** つづく *****

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