第38話「そんな・・・嘘だろ?」

「父は、剣術の鍛錬だけに打ち込んでいたし、

 私も厳格な父の影響を受けて、

 小さいころから剣術の訓練をしていたわ」


モエカは思いつめた様子で、俺たちに身の上話を始めた。


「剣とすべての感覚を共有すること・・・

 それが剣術の全てだというのが父の口癖だったし、

 私もそれを信じて鍛錬してきた・・・

 ミリアン・・・」

「え・・・はい」


突然名前を呼ばれて、ミリアンは驚きを隠せなかった。


「今だから白状するわ。

 私、魔法が嫌いだったの」

「え・・・」

「父から、魔法は邪悪なものだって教わってた。

 精霊の力を借りて、人間にできないことをするなんて、

 邪道だし、人の道に反することだって・・・信じてた」

「そう・・・ですか」


ミリアンは寂しそうな顔をした。

俺にとっても意外だった。

今までいっしょに旅をして、戦火を潜り抜けてきたのに、モエカの気持ちには気づいてやれなかった。

今思えば、俺がモエカに魔法水を使ってはどうかと提案したとき、彼女の中では激しい葛藤があったのだろう。


「でもね。

 ミリアンの魔法に何度も命を救われて、気づいたの。

 私は、間違っていたって。

 魔法も人の心から生まれるものであって、剣術と同じだった。

 使う者次第で、善にも悪にもなる・・・。

 だから、これからは魔法を避けるんじゃなくて、

 いっしょに戦っていこうって思ったの」


モエカはそう言うと、腰のカバンから100円のシャンプーを取り出した。


「それ・・・温泉のときの・・・

 ずっと持ってたのか?」

「うん。

 ミノルにもらったやつ。

 実はこれを見たときから、ずっと試したいことがあったの。

 勇気がなくて何もできなかったけど、今はもう決心がついたわ」


モエカはシャンプーの容器からドロドロの溶液を流し、てのひらで受け止めると、それをミリアンに見せた。


「ミリアン、お願い。

 これに火炎の魔法を宿らせて欲しいの」

「え・・・」

「できる・・・かな?」

「はい、やってみます!」

「ありがとう」


うーむ。

シャンプーを床に撒いて、敵をツルツルステーンと転ばす作戦か?

それともシャボン玉の爆弾を作るとか?


彼女の真意を聞いてみたかったが、俺は俺で急いでやることがあった。

マロンのゆいいつの武器であるクロスボウが、さっきの戦闘で破壊されてしまったのだ。


「ちょっと、見せてみろ」


途方にくれているマロンから、俺はクロスボウを受け取った。

見れば、本体が中央からバックリと折れてしまっている。

これでは引かれた弦を固定することができない。


「ミノル、

 私にも魔法水を分けてくれ。

 お前ほど正確には投げられないが、

 他に使える武器もないし・・・すまない」


いまだ敵の本拠地のまっただ中に居るのにも関わらず、武器を失ってしまったマロンは意気消沈していた。


「まあ、まてよ。

 諦めるのはまだ早い」


俺はリュックサックから、「強力瞬間接着剤・木製品用(100円)」を取り出した。

付属のハケで、粘度の高い接着剤をクロスボウの割れた面に塗りたくり、ガムテープでグルグル巻きにした。


「2分間は動かすなよ」

「え?」

「これで直ったはずだ」

「そんな・・・嘘だろ?」

「瞬間接着剤と言ってだが、

 糊みたいなもんだが、これは短時間で固まる。

 100円ショップだから5グラムしか入ってないが、

 丁度いいし、かえって便利だよな」

「・・・」


マロンはまだあっけにとられていたが、2分後にはわかってくれるだろう。


「よし。

 アルフォンを追うぞ。

 その先に、きっとフローラム執政官も居るはずだ」

「うん。

 そんだな」

「行こう!」


俺たちはアルフォンが立ち去った先に向かって進んだ。

扉を抜けると、長い廊下に出た。

その廊下をさらに進むと、天井の高い広間にでた。


衛兵が4人居る。

そしてその奥には、銀色の鎧をまとったアルフォンが立っていた。

鎧を着たということは、今回は戦う気があるようだ。

アルフォンはヘルメットをかぶると、その上からフェイスシールドを装着した。


「あなたがたのおかげで確信が持てましたよ。

 やはり鋼鉄だけでは不十分です。

 我々は魔法の力を手に入れなくはならない。

 強大な魔法の力をね。

 そのためには執政官にも協力してもらはなくてはなりません」


部屋の奥を見ると、そこには四肢を拘束されたフローラム執政官の姿があった。

かつての精悍さは失せ、やつれ、疲れ果てている。

拷問されたか、無理やり魔法を使わされたのだろう。

俺の中で、改めてアルフォンとメタルギルドへの憎しみが煮えたぎった。


「アルフォン・・・

 お前は本当に愚かだな」

「何だと!」

「俺たちが、武器と魔法だけで

 強靭なメタルオークや

 お前の部下を倒してきたと思っているのか?」

「・・・まさか

 それは友情だ!とか

 言い出すんじゃないだろうな」

「・・・確かにそれもあるが・・・違う。

 お前は重大な要素を見落としている。

 俺たちを勝利に導いたのは、

 他でもない、

 ヒャクエングッズだ!」

「ヒャクエン・・・グッズ・・・」

「そう。

 超高度文明をもつ異世界から呼び寄せた、

 お前らの技術を遥かにしのぐ、

 超技術を結集した様々な神器、

 それがヒャクエングッズだ。

 この世のものではない力を駆使する俺たちに、

 そもそも、

 お前らが勝てるはずはないんだよ」

「・・・ほう。

 ならば、そのヒャクエングッズとやらも、

 いただくとしよう」


アルフォンがハンドサインを送ると、4人の衛兵たちが俺たちに襲い掛かってきた。


***** つづく *****

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