ハーモニーランド(ハーモニー・LSD・青いバナナ)

 どこの県か忘れてしまったが、ある日「ハーモニーランド」というテーマパークができたらしい。コンセプトはダイエットとのことで、メタボリックシンドロームと診断された私は大いに興味を持った。

 ハーモニーランドへ来週の日曜日に行ってみたいと思ったが、本当に場所がわからない。インターネットで調べてみても出てこない。どうしたものか悩んでいると、私をメタボと診断したマビキクリニックのマビキ先生から電話があった。

「これはこれは、お久しぶりです。普通、医者から電話なんてないでしょう。今回電話したのはですね、実はハーモニーランドへのチケットをお渡ししようと思いましてね。私?私はこの通り忙しいもんですから、行ける時が無くてですね。どうでしょうか。チケットをお譲りしますよ?」

 私は思ってもいない幸運がやってきたと思い、二つ返事でチケットをもらうことにした。チケットは金曜日に郵送されて、我が家に届き、チケットからは甘い匂いがした。

 チケットはどうやらビスケットで出来ているらしい。チケットを壊してしまって入場できなくなってしまっては元も子もないので、大切にジップロックへ入れた。

 

 チケットと一緒に何やら手紙のようなものも送られてきた。


 お久しぶりです。マビキです。チケットは届きましたか?おそらくこれを読んでいるということは届いたということでしょう。あっ、チケットは脆いので大切に扱ってくださいね。まぁ、それよりも今あなたはどうやってハーモニーランドへ行けばいいのか。そう思っているでしょう。大丈夫です。「行かなくて良いのです」。そのまま土曜日はなんの支度もせずに寝ていれば良いのです。

                              マビキより

 

 一体どういうことなのか。ハーモニーランドへ行く支度はしなくていいらしい。恐らくマビキ先生が迎えに来てくれるということなのかもしれない。しかし、前日である土曜日に私は一応ハーモニーランドへの支度を済ませ、朝の六時に目覚ましをかけた。

                  *

 目を覚ますと、自分はどうやらハーモニーランドにいるらしかった。何やら珍妙な不協和音が流れており、私は大量のバナナを積んだゴーカートに乗っていた。

 年齢にして20歳ぐらいの女性が、バナナの皮を水着にした際どい格好で立っている。


「皆さん〜こんにちは!」


「「こんにちは〜!」」


 野太い声が聞こえた。周りを見渡してみると自分と同じようなメタボ体型の人がゴーカートに乗っていた。


「今から、皆さんにはこのコースを一周してもらいます!名付けてLSDコース、ラザニア ステーキ ダイエットコースです!そして、そのゴーカートちゃんは青いバナナ号と言います!今皆さんの周りにはバナナが積んであるのがわかりますかぁ?」


 バナナは自分の体とシートの間にびっしりと隙間なく積まれていた。これがなんだというのか。私は耳を傾けた。


「このゴーカートはバナナの皮を燃料として動きます!一個分の皮を足元の穴に入れると、一メートル進みます!もちろんバナナの中身はポイ捨てしてはダメ!ですよ〜しっかりと食べてください!バナナダイエットです!では、3、2、1スタート!」


 いきなりすぎるスタートに困惑したが、どうやら皆んなバナナを食べ、スタートを切った。ならば、私も負けるわけにはいかない。

 必死にバナナを食べ、足もとの穴に皮を入れると、時速100キロほどで進んでいく。どうやらアクセルはないらしく、ブレーキだけがある。もちろんのことだが青いバナナはハンドルで操作する。なるほど、これは楽しい。バナナを食べれば食べるほど速度は上がる。現在、時速150キロ。


 およそ中間地点で、ラザニアの壁が行く手を阻んだ。どうやら突破するにはこの壁を突き破らないといけないらしい。

それにしてもいい匂いだ。私は青いバナナから降りて興味本意でかじってみた。すると、なかなかの美味しいラザニアだった。どうやら他の人もこれを「食べて」突き破るようなので、私もこの壁に歯を突き立ててラザニアの壁を掘っていく。

 吐きそうなくらいにラザニアを食べたところで、ようやく穴が空いた。私は、再び青いバナナに乗り込み、バナナを食べた。


 なんだか、クラクラするのは気のせいだろうか。どうも血糖値が上がっているような気がする。時速200キロで進んでいた青いバナナは、コーナーを曲がり、勢いよくゴールテープを切った。

 青いバナナにブレーキをかけて、なんとか這い出してみると、自分以外の参加者は消えていた。私は、吐き気とめまいで仰向けになって倒れてしまった。

太った山の向こう側から際どい水着の女が何か皿を持ってこちらに向かって走ってきた。

 しかし、どうも見たことがあるような顔だ。そう考えると、女は私の司会の中に入った。顔にデミグラスソースのようなものが垂れ落ちた。

「優勝おめでとうございます!これは優勝トロフィーの松阪牛のステーキになります!どうぞ!」

 そう言って私の口にステーキを流し込んだ。ステーキを飲み込むと強烈なめまいが押し寄せた。私の血糖値が限界を迎えたのである。

 女は私を見下ろしながら、侮蔑の表情を浮かべていた。その顔をよく見てみると健康診断をした時の担当の看護師だった。看護師はスマホを取り出し、誰かに電話をかけていた。


「あっ、もしもし。マビキ先生ですか?えぇ終わりましたよ。人口の間引き。本当にデブってどうしようもないですねーいや、でもいい制度だと思いますよ。増えすぎた人数を減らすのに、メタボから殺していくのって。だって今まで美味しいものを食べてぶくぶく太ってきたんでしょ、強欲、欲望の塊ですもんね。しかも私たちが最後にこんな『贅沢』な方法で殺してあげるんだから。でも笑っちゃいますよ。食欲に負けて死ぬなんて。そうですか。ではもうそちらに向かいますね。はい、では失礼します。」


 私はここで初めてメタボを後悔した。しかし、生まれつき太っている人はメタボというのだろうか。その人も殺されるのか。だとしたらあんまりじゃないか。そのような疑問を持ったまま私は意識を手放した。

 


 

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