仏像ブーム(仏像・消費・青チャート)
世は仏像ブームを迎えた。今の時代、仏像は誰もが持っているものである。小学生からOL、全く宗教に興味のないホストですら一人一体持っていた。
特に勢いが凄かったのは女子高校生だった。通学用のバッグにもストラップの仏像が下げられており、タピオカブーム以来の熱狂を見せた。
その中でも、やはり注目しなくてはいけないのは、買う方ではない。売る方である。仏像ブームにあやかって、一攫千金を狙うものも当然出てくる。その有象無象の中の一人、フリーターのタケシもその一人だった。
「オラも、仏像を売りさばいて金持ちになるべ」
そう意気込んだタケシは、まずネットカフェに入りインターネットで、「仏像ブーム」と調べた。すると、色々な仏像が出てくる。メイドの格好をした仏像や抱き枕になった仏像。目まぐるしいほどの種類が出てくる。
ここでタケシはこう考えた。「今、どういった種類の仏像が流行りなんだか?流行りがわかればオラもきっと仏像で儲けられるべ」と。タケシは、自分は天才なのではないかと錯覚した。既にお金持ちになったような気分になった。このことに気がついたのは、ただ自分だけで、未だ誰も気づいていない。そう思い込んでしまったのである。
タケシはすぐさまyahoo知恵袋で聞いた。
「仏像の流行りはなんだ。教えろ」
タケシのこの一つの質問だけで、yahoo知恵袋は大いに荒れた。「そんなのしらねぇよ」だとか「そんなのがわかって教えるか、バカ」だとか「死ね!」「借金しなさい、南無阿弥陀仏」など様々な回答が寄せられた。
その中で一つタケシの目を引く回答があった。
「お教えしましょう。この世には青チャートと呼ばれる、仏像の流行りをグラフ化したデータがあります。これを持っているのは、ブツゾーンやネンブ2のベンチャー企業のみです。実はここだけの話なのですが、私はそれを持っています。嘘ではないですよ。本当のことです。もし、タケシさんが興味を持ったのならば、下記のメールアドレスに連絡をください。よろしくお願いします」
タケシは、この回答を読んで全く疑わなかった。すぐさまそのメールアドレスに連絡をすることにした。ネットカフェの退出の時間が迫ってしまっていても、お金のないタケシは延長することに躊躇しなかった。
タケシがメールを送ると、すぐさま返信がきた。
「メールありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、取引のお話です。青チャートはおよそ1億円の価値があります。1億円の価値を『信用する』という意味で、お金を支払って頂きたいのです。いえ、大した金額ではありません。たったの百万円です。どうでしょうか?」
タケシは、安いと感じた。1億円に対して百万円の価値を産み出せるのは素晴らしい。そう思い立ったタケシはすぐさま了承のメールを送った。
するとまたもやメールが返ってきた。
「では明日までに、東京の〇〇駅の西口の▲▲電気に現金で紙袋に百万円入れて持ってきてください。紙袋を置いたと同時にポケットへ青チャートのデータが入ったUSBを忍ばせます」
タケシはすぐさまネットカフェを出て百万円を借りるために銀行へ向かった。タケシには百万円の貯金などなかった。当然ながら門前払いをくらい、結局タケシは親やバイト先の同僚に頼み込んで、なんとか百万円を集めたのだった。
*
端的に言うとタケシは次の日青チャートを手にした。ちゃんと紙袋を置くと、いつの間にか後ろのポケットにUSBが入っていた。しっかりと「青チャート」も入っている。青チャートの中身は複雑になったグラフだったが、そのグラフの下に現在のトレンド、スク水仏像などと親切に書いてあったので、学のないタケシでもわかった。
そこでタケシはスク水仏像の製造に取り掛かることにした。しかし、その前に腹ごしらえということで蕎麦屋に入り、天ざるを頼んだ。
天ざるを食べ終わり、蕎麦湯を飲みながらテレビを眺めていると、とある高名な住職が記者会見を開いていた。
「現在、皆様は仏様を拝めてくださって大変、私達の身としては嬉しい限りでございます。しかし、残念ながらその善意を悪用する輩も出てきました。仏様を金儲けの道具にしてしまうのは、悲しさといいますか、なんと言えば良いのかわからないというのも正直なところです。そこで私達は、国へ署名をし、仏像取引法の制定に取り組みました」
タケシは呑気に蕎麦湯を飲んでいた。それだけではなく、デザートのアイスを頼もうか悩んでいた。
「それが喜ばしいことに、今日制定されました。今日から仏像の売買は住職のみが可能ということになります。形は変わりますが、今までと変わりなく仏様に感謝をしていただけると幸いでございます」
タケシはなんのことかわからなかった。タケシは蕎麦屋を出て、スク水仏像をとりあえず一体製造し、Amazonで販売したところ、警察に捕まった。
*
仏像取引法が制定されてからというのも、仏像ブームは終わりを迎えた。勢いのあったブツゾーンやネンブ2は倒産し、もちろん個人経営でやっていた人も自己破産という末路を迎えた。
仏像を買っていた顧客(女子高生や主婦などの流行りが大好きな人間)は、飽きてしまったが、仏像というたいそう尊いものなので捨てるわけにもいかず、仏壇に制服仏像やくまさん仏像を祀るしかなかった。仏壇は陳腐なものとなり、末代までの恥で、人様に見せられないようなものとなってしまった。
つまり、タケシだけではなく、仏像を売っていた小金持ちも流行りに目が眩んで購入した客も、総じてバチ当たりで仏様から罰を受けたというわけである。
やはり大量消費社会というのも、考えものだと仏様は思っているかもしれない。
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