第2話 孤独
事件から数週間が経っても警察から何の連絡もない。それどころが捜査すらされていないようだった。それを知ったのは事件から3日後の事だった。
「友香、ちょっと校長室に行きなさい」
担任からいきなりこう言われて、なんだろうと恐る恐るそれに従う。校長室に着くと、既に隣のクラスの三奈という生徒がソファーに座っていた。その向かいには校長と先日家に訪ねてきた刑事が座っていた。私も進められるままに三奈という女子の隣に座る。
「授業中突然ごめんね。ちょっと先日のことで2人に聞きたいことがあって、呼んで貰ったんだ。先ずは横井三奈ちゃんの事件から聞きたいんだけど・・・・」
そう言われ、隣の三奈という女子が刑事に自分が遭った事を思い出しながら話した。
私はそれで疑問が解けた。何故関係ないこの子がここに居るのだろうと思ったけど、彼女も私と似たような事件の被害者だったようだ。
しかし話を聞いていて感じたのは刑事の熱の入れ用の違いだ。私の事件は完全についでで、被害届も取り下げてほしそうだった。それに対して三奈の事件は結構な捜査員が導入されているのだろうと思える感じだった。
三奈の事件は私の事件とは違い、玩具にはされていない。しかし三奈は犯人に住居侵入され刃物を突きつけられるという被害だった。
三奈を見たが切り傷はなさそうだった。切りつけられた訳ではなく、頬のあたりに刃を当てられたのだそうだ。犯人に金品の在処を聞かれ両親の寝室のタンスの中にあると答えた所で、買い物に行っていた母親が帰ってきたことでそれ以上の被害は無かったそう。
だからだろう。警察は刑事処罰の問える三奈の事件の犯人探しに躍起になり私の方の犯人は野放しだった。
「それで、これから警察に行って、面通しっていう何人かの人の顔を見て、その中に犯人が居れば教えて欲しいんだけどお願いできるかな?」
私と三奈は頷き、パトカーに乗せられ浜松東警察署まで向かった。
子供だった私はパトカーの中でこれでぐっすり眠れると思っていた。何処か冷静に警察が犯人探しをしていないことを感じていながら、そんなことはないだろう。きっと犯人を見つけてくれるとそんな期待をしていた。
警察署に付き、刑事の後ろをついていく。すると取り調べ室だと思われる扉ではなく、会議室のような部屋の扉を開ける。するとそこにはガラスなのかアクリル板なのか透明な壁の向こうに7〜8人の男がこちらを向いて並んでおり、何人かの刑事と思われる男性が居た。私達が部屋に入るとその刑事に並べられた男たちは右を向けだの左を向けだの言われ言われた通りに動いていた。
私は壁の向こうの男たちを見て今回は三奈の犯人を探しているのだろうと思った。私の犯人はまだ見つかっていないのだろうと考えた。しかし違った。私達が部屋へ入った後から恰幅のいい男が入ってきて、私に向かって左端の男とか犯人に似ていないと言い出した。その犯人はどう見ても私を玩具にした犯人では無かった。壁の向こうにいる男は若く見ても40手前といった感じで普通に見れば50代と言われても違和感が無かった。私の事件の犯人は下手したら10代後半位に見えたのだ。大学生くらいの犯人をいくら子どもと言えども自分の父親とそう変わらない年齢と思うことは無い。その瞬間私の犯人は捕まえる気が無いのだと察した。母親と楽しそうに話していた刑事は母親を言いくるめたのだろう。そして母親にとってその口車に乗ったほうが利があったのだろう。それが分かったら目の前が暗くなる感じがして気分が悪くなってきた。自分が大人を信用しないことを決めたことを悟られたくなかった私は、バレないように必死に取り繕いながら学校へと戻った。淡い期待を何度と無く持ったことも否定はしない。しかし人など信じるほうが馬鹿なのだと世の中を知ってしまった気がした。
裏切るほうが悪いとか、信じる方が馬鹿なんだとか言いたいことを言うやつはいるが、人間という種族を信じること事態が愚かなことなのだと思う。私はここからそう考えるようになって行った。母親は1番信じてはいけない身近な人間だった。
もともと人と自分からコミュニケーションを取ることは苦手だったこともあり、そこから私は孤独を突き進むことになるが、慣れてみると案外快適だった。母親は私を売ってでも金を作ろうとするほどがめつく、愛情を示すことは無かった。家族で何処かへ出掛ける時も私だけを置いていくことは常だった。段々とそれにも感情が動くことは無くなっていったが、何か仕返しをしてやりたいという感情は無くなることは無かった。
それは警察に対しても同様で、組織に対して何も出来なくても母親と笑顔で密談をした刑事たちは許すことは出来なかった。
此処から私の復讐に染まった人生は始まったのかもしれない。
しかし不思議なことに犯人に対しては怒りも復讐という感情も湧かなかった。
何故かは分からないがのうのうと幸せになる姿が浮かばなかったのだ。生きていても死んでいても幸せは無いだろうと思えたら犯人のことはどうでもいいように感じた。
ただ、少しだけ申し訳ないと感じたのは父親に対してだけだった。
父親だけは最後まで犯人を恨み続けていた。
復讐の対象はこの時もう1人増えていた。
担任の渥美あつ子という女教師だ。
警察への捜査に私と三奈と引率として渥美あつ子が同行した。警察での面通しが終わると私だけ先に近くの産婦人科へ送られ、それには担任の渥美あつ子も一緒についてきた。病院へ着くとそこには母親が待っていた。暫く待合室で待っていると他に待っていた患者と思しき人達が診察を終えたのだろう。どんどんと返っていく。最後の1人になり漸く私の番が来て診察台に載せられた。
婦人科へ言ったことのある者なら分かるだろう。あの独特の診察台は小さな子供にはただの恐怖だ。何をされるのか、私はとうとう殺されるのだと思った。しかし現実は只の診察。しかし見ず知らずの男に玩具にされた後ではそれもその犯人の男がしたことと何ら変わらないものに思えた。それを診察室に一緒に入ってきた母親と担任は笑いながら見ていた。カーテンの向こう側の笑い声。幼き少女の残された心を握りつぶすには十分だった。
こうして頼れる者も信頼できるものも1人も居なくなった世界で成長する中で私は復讐することを現実的に考えるようになっていく。
愚かなことだと分かっていても、惨めになるだけだと分かっていても、自分を納得させるには復讐しか道がないと思えた。
頭で解る未来より、モヤが掛かって見えづらい今が大事だったのだ。未来に笑うより今笑いたい。そんな僅かな感情が私の人生を決めていく。
初めは簡単なことばかりが頭に浮かぶ。
1番は母親の眼の前で頸動脈を切り自殺をすること。これは警察への抗議としても有効に思えた。しかしなかなか実行できなかった。
次にマスコミに訴えること。警察と学校側の黙殺を訴えたら意外と行けるのではないだろうかと考えたが、それほどドラマティックな話には出来なさそうで早々に諦めた。上手く行けば一緒に母親への復讐も出来ていたのかもしれない。
それ以外はどれも似たり寄ったりの考えで行動に起こすことも手を貸してくれそうな人を探すことも不可能に思え浮かんだ先から消去していくものばかりだった。
そうした日々を過ごしていく中で私は小学校を卒業し中学へ進学した。
此処での出会いが人の道を外れそうな私に軌道修正の機会を与えるが、恨みで一杯の私はその機会を活かすことは出来なかったように思う。
復讐は失敗する @tazakimiyu
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