第4話 希望を抱くその先に

 思いがけない出来事だった。この施設に桜が存在しているなんて。しかも、花も咲いていた。私は桜の花を見たのはこれが初めての事だった。

 私がかつて暮らしていたころの地球の桜はほとんどが戦争や環境汚染によって朽ちてしまっていた。辛うじて残っていた桜も気候変動などが要因で花が開くことはなかったのだ。


 あの少年、レインって言ってたっけ。恥ずかしいところ見せちゃったな。あの子には話しておこうかな。

 思考を整え、両手で顔を叩き気持ちを入れ替える——。


「失礼します」


「あー来たね!こっち来てー」


 自動ドアが開き、管制室に一歩入ったところで挨拶をする。数多くのモニターが青白い光を放っているのが目に入る。それらは全てはるか上空、人工衛星からの映像だった。赤紫外線、電磁波、微弱振動、サーモグラフィー。様々な視点から地球を監視している。

 やはり科学技術はそれほど衰退している訳では無さそうだ。

 モニターから目を離すとユカリの隣に筋肉質な体をした男性が立っていたのに気がついた。


「こちらは、ラウド機動隊隊長。で!こっちが…えと、名前聞いてなかった…あはは…」


「ユカリさんはどうも抜けてるところがあるからなぁ…初めまして。俺は地球調査機動隊隊長のラウド・ガーネットだ。」


「初めまして。サクラです。」


 どうやらこの2人は地球調査隊のリーダーらしい。ラウドさん曰く、どちらかが権力を持って暴走しないようにするためだよ。とのこと。

 私たちは今の地球、かつての地球、自らが知りうる情報を可能な限り提示しあった。


「ねぇ、サクラちゃん。あの宇宙船ってなにの素材でできてるの?」


「あぁ、素材ならアダマンタイトとダイヤモンド、ミスリルの合金だけど」


「え!?アダマンタイトもミスリルもフィクションのものじゃなかったの!?!?」


「あー…その素材は私たちがおおやけにならないように作り出したものだから…」


 そう。私がかつて働いていたのは地球を守るべく世界の裏で活動するのもだった。その技術、発明が外に漏れたら一瞬で世界が灰になるのは目に見えていたからだ。それほどのものを扱っていたからこそ、一万年も生き延びることが出来た。


「なんか二人打ち解けるの早くないか…?」


 お互いタメ口で話すようになっていたユカリと私を見たラウドさんが呟いた。女子トークを侮るでないぞ、ラウドさん。


 情報交換も終え、久しぶりの活動ともあり疲れが襲ってきたので、私は管制室を後にしようとした。そこで大事なことに気がつく。


「あの、私の部屋ってどこですか…あとその指サックくれます?」


 ユカリが慌てて指サックを持ってきてくれた。地図上に私の部屋も表示されている。どうやら、宇宙船に入っていた私の持参物も運ばれているようだ。感謝を伝え、私は自室へと向かった——。




「……ふぅ」


 自室に着くなりベッドに飛び込み息を漏らした。永い眠りから目覚め、新しい環境に放り出され、今の地球を知った。現実いまを受け入れるまでしばらく時間がかかりそうだ。

 この部屋も全てが真っ白。清潔感のある白、美しい白とは違い、ただただ無が拡がっていく。そんな感覚に陥る。この真っ白なキャンバスのような壁のむこうに私は夢を抱き、それをえがく。


 空を描こう。草原を描こう。太陽を、桜を描こう。


 真っ白な部屋が彩られていくのを想像をすると心が軽くなる。私が夢見る地球の有り様。それを実現するために私はここまで来たのだ。挫けてなんかやるもんか。みんなの想いに報いるためにも。この命を懸けて。


 * * *


「…ん、ふぁぁ〜」


 大きく欠伸をしてまだぼやけている目を擦り、辺りを見回す。私が持ってきていたノートや小物が置いてあるのが目に入る。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 この施設は夜に近づくと照明が月ほどの明るさに調節されるらしい。真っ白な部屋がまるで海中のように青白く照らされている。


(昔は海もあったんだけどなぁ…)


 そんなことを頭に浮かべながら、すっかり覚醒してしまった体を起こす。


(散歩でもするか…)


 新しい生活の場。この施設内を歩くのは心身共に適応するのにはちょうどいいかもしれない。自動ドアを抜けた先で私はに出たのだった。




 ——あとがき——


 4話目までご覧くださりありがとうございます。2話目までは主人公レイン視点で、3話目からはサクラ視点で進行させていただいております。様々な視点から物語を進めていこうと思い、このような構成にさせていただきました。

 まだまだ文に迷いがありますが完結までしっかり頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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廃れた世界に花束を たぴおかぴ @tapiokapi

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