第3話 それは新天地の輝き

 -10293年 3月14日-


 無限に続く円周率。まぁ、無理数だから割り切れるわけないんだけどね。そんな無限・・の象徴である円周率の筆頭3人組。〈3.14〉を持つ今日3月14日、この計画は行われる。この計画は過去と未来を繋ぐ重要なものとなる。今もなお混沌としている地球はいずれ破滅する。その際の助け舟がこの私。いや、役重すぎっしょ(汗) まぁ計画実行役が私だったから仕方ないけど…


 そろそろ本物の助け舟に乗り込まなくちゃ。では、新時代の皆を救いに行ってきます!



 * * *



「ん……」


 瞼を開けると大量の光が視界に注ぎ込まれる。何度も瞬きをし、その度に目が眩む。一体どれだけの間、光を取り入れていなかったのだろうか。

 目が慣れたところで辺りを見回す。見慣れた宇宙船が視界に入る。そこで私は謎の違和感に襲われた。


「えっ……んん…っ!!」


 喉も久しく使われていなかったためか声を発すると喉に激痛が走る。呼吸を整え、少しずつ落ち着きを取り戻す。痛みも引き落ち着きを取り戻したところで改めて辺りを見回す。

 感じていた違和感の正体にようやく気づいた。それは、自分が宇宙船の外にいて、真っ白な部屋のベッドの上で横になっていたことだ。

 どうやら私は手術室のような場所にいるらしい。大小様々なチューブが腕に繋げられ、胸の電極パッドと繋げられた心電計からは規則正しい音が鳴り続けている。私はどれだけの間眠っていたのだろうか…。

 そんなことを考えていると部屋の奥から複数の足音が聞こえてきた。廊下を歩いているのだろうか。どんどん音が大きくなってくる。そして、この部屋の扉が開けられた—。



 


「はい、治療終わり!お疲れ様」


「あ、あぁ…あっ!喉痛くない!」


 私の覚醒に気づいた白衣に身を包んだ人達が治療を施してくれた。最初は恐怖を感じ逃げ出そうとしたが、足がおぼつかなくどうしようもなくなり観念して身を委ねた。だが、黒髪でポニーテールの長身の女性、ユカリから治療前にこの世界のことや、地球の話を聞かせて貰うことが出来た。

 この世界の言語は英語と日本語の二種類。簡潔に物事を伝える英語。複雑な内容をわかりやすく伝えられる日本語。この二ヶ国語が公用語となっており、私も話を聞くことが出来た。

 そして、何より驚いたのが私が一万年も宇宙をさまよっていたということだ。


「あ、あの!ありがとうございますっ」


 私が感謝を伝えるとユカリはにこりと優しい笑みを浮かべ、体が慣れたら管制室に行ってね。とだけ言いこの部屋を後にした。

 大きく伸びをする。先程の治療のおかげで体が目覚める前の状態に戻りつつある。ベッドから体を起こし、床に足をつける。筋肉もきちんと機能し、しっかりと立ち上がることが出来た。一歩一歩、踏みしめるようにドアへ進む。

 ドアに手を伸ばす。金属質な冷たさと重みを感じ取ることが出来た。恐る恐るドアを押し開ける。その先にひろがっていた景色は…


 人間味のない白一色の世界だった。



 * * *



 どうやら宇宙船に乗っていた人間が目を覚ましたらしい。ユカリさんやユーカ、医療技術班のメンバーが治療にあたり無事に回復したということだった。

 かつての地球やその文明、科学技術など幾多の面において興味を抱いていた俺はその人間に聞きたいことが沢山あった。


「でも、今行っても迷惑なんだろうなぁ…」


 そう呟きながら緊急治療室を横目で見ると、栗毛色の髪をした見知らぬ女性が目に入った。あちこちを見回し頭を搔いている。

 あーこれ、道に迷ってるやつだ。そう思った俺は、道案内を利用して地球について色々質問しようとすかさず駆け寄けよろうとした。しかし、先に彼女から声をかけられた。


「ねーそこの君!管制室ってどこか案内してくれない?」


 うわ、最初からすごいな。と、思いつつ道案内はする気だったので管制室まで連れていくことにした。


「いやーありがとね!ここ地図もないのに管制室にお呼ばれしちゃってさ」


「ユカリさんもいい加減だなぁ…あ、管制室に行った時この指サック貰っとけば大丈夫ですよ」


 そう言いながら俺は親指と人差し指で長方形を作り、それを広げる仕草をする。するとその範囲に拠点の地図が表示された。地図には様々な施設の名前や用途など、細かく表示されている。


「おー科学技術は衰退してる訳じゃないみたいだね」


 感心した様子で彼女は答える。やはり1万年前とはいえ科学技術はかなり進歩していたらしい。それがわかっただけで胸が高鳴る。かつての地球はどんなところだったのか、より一層興味が湧く。

 もうそろそろ管制室だ。廊下の角を曲がりそのまま真っ直ぐ歩く。ここで先程まで笑いながら話していた彼女が急に立ちどまった。彼女は管制室前のガラス奥を口を小さく開けて眺めていた。


「桜……」


 彼女はそう小さく呟いた。彼女の視線が一点に釘付けになる。白一色で味気のないこの空間に存在するただひとつの自然。人の手が施されたそれを自然と一概に括るのは不自然かもしれないが、それは間違いなくここにある唯一無二の存在だった。

 サクラ。薄桃色に染められた花弁は羽衣のように木全体を覆い、その幹は地面に身を委ね全てを受け入れるようなさまをしている。


「…私の名前、サクラって言うんだ。よろしくね」


 そう言った彼女の顔は、今にも消えてしまいそうな程弱々しい笑顔になっていた。




 ——あとがき——



 ようこそ新天地へ。どうもたぴおかぴです。

 3話目を読んでくださりありがとうございます。前話までがプロローグ、この話からがストーリーとなっております。そう構成したつもりです。ここからまた話をしっかり作り込みながら書かせていただきます。

 しっかり頑張ります。応援よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る