ねこかぶりは嘘をつく
涙が止まるまで、二人は切り株に並んで腰掛けていた。キルトがローブの端を扇ぎながらぐったりと呟く。
「あっつい……泣くってこんなに疲れたっけ」
「ローブ脱げばいいと思います。それ気に入ってるんです?」
うーん、と唸ったのちキルトはローブを脱いだ。見る間にローブが縮み、子猫サイズになる。チコは尻尾を膨らませて驚いた。
「魔道具なんですか!? そういえば獣型の時もかぶってましたね!?」
「昔レティがくれたんだ。どれくらい成長するのかわからないし、変容するだろうし、ってわざわざ伸縮機能つけて。ここに置いて行ったんだけど、残ってて驚いた」
キルトは適当にローブを畳んで膝の上に置いた。ふと背後に気配を感じたチコが振り向く。黒い尻尾が二本、しゃなりと振れた。
「っチコ、あんまり、見ないほうが……」
少なからず狼狽したキルトをチコが見上げる。若葉色が悪戯げにきらめいた。
「少し、尻尾を触らせてもらえませんか?」
「え」
キルトは体を強張らせた。視線がさまよい、さまよって、最終的に若葉色に戻ってくる。そして、こくりと頷いた。
チコは立ち上がってキルトの後ろに回った。不安げなキルトが横目で見ている。チコがキルトの片方の尻尾の先をそっと持つと、両方の尻尾がくすぐったそうにのたくった。よほど慣れない感覚なのだろう、キルトは目を瞑って、口もきゅっと結んでいた。
初めて見るキルトの表情に噴き出したチコは、懐から一巻きのリボンを取り出した。ちょくちょく暴れる尻尾に苦心しつつ、リボンの両端をそれぞれ二本の尾の先にゆるく結わえつける。どうにかこうにか形にしたチコは、呆然としているキルトに満面の笑みを向けた。
「……はい! よくお似合いです。もっと可愛くなりました」
キルトは恐る恐る尻尾を引き寄せて、ほどけないようにリボンを撫でた。金のラインが入った藍色のリボンが吹き抜けた風にふわりと揺れる。また潤みだした黄金の目がチコを見て、どこかつたなく笑った。
「……可愛いは、さすがに、どうかと思うよ」
か細い声で落とされた文句は、たぶん半分くらい嘘だった。
ねこかぶりは夢をみる 斬刃 @blader
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