言いにくいことは脳内DMでどうぞ

ちびまるフォイ

応答せよ 脳内DMで応答せよ

(どうしよう……あの人、チャック全開だ……)


私の前に立つ男性はズボンのチャックが全開。

私が急に席を立ち「全開ですよ」などといえば男性の社会的地位を失わせかねない。

かといって、いきなり股間に手を伸ばしてチャックを閉めさせるわけにもいかない。


こういうときは……。


私は脳内DMで男性にだけメッセージを送った。


>すみません、チャック全開ですよ


男性はハッとして慌ててチャックを締めた。

ものの数秒のできごとだったので、周りの人にも気づかれていない。


>ありがとうございます。気づかなかったです ><

>いえいえ


いいことできたなと気分が良かった。

学校の最寄駅に着くと電車を降りて、待ち合わせていた友達に手を振った。


「あれ……?」


友達はややはにかんだ顔で気まずそうに手を振った。


「どうしたの? なんか気分悪そうだけど」


「実は……最近、変な脳内DMが送られてくるの。

 脳内DMってオフにできないのかな」


「できないと思う。ほら緊急時の連絡にも使われるみたいだし」


「だよね……」


友達はその日は1日中暗い顔で過ごしていた。

変なDMとはいったいなんなのか。

気にはなったが友達に深く聞くと忘れようとしていた傷をえぐるような気がして避けた。


「ただいまーー」


「あらおかえり。あんた最近変な脳内DM送られてこない?」


「変な? お母さんに来てるの?」


「ちがうわよ。ほら、今ニュースでやってるのよ」


お母さんが見ているワイドショーではちょうど脳内DMについて特集されていた。

見出しには「脳内ハラスメントが急増中!」と出ている。


「なに? 脳内ハラスメントって」


「気持ち悪いことを書いた文章を脳内DMで送りつけたりしてくるのよ」


「この正義タイプってのは?」


「正義感を盾に小さなことを指摘してくるのよ、お母さんもこないだスーパーで脳内DM送られたわ」


「え、お母さんが!?」


「そうよ。買い物してたら、いきなり脳内DMが飛んできたの。

 『あなたが買い込んだことで、手に入らなくなる人の気持ちを考えたことないのか!』って」


「へぇ……」


「あんたはないのよね?」

「ないけど……」


話を聞くと一度も脳内ハラスメントを受けていないことで

逆に自分が魅力的じゃないような気もしていてそれはそれで複雑だった。


テレビでは有識者と呼ばれる人がしたり顔で解説している。


『とにかく、脳内DMによるハラスメント被害にあったときは無視が一番です。

 変に反応したり、脳内DMを送り返したりすると脳内で揉めてしまい

 脳内がDMばかりで本来の思考が遮られ……遮られ……遮られ……遮られ……』


有識者の目はうつろになって同じことを繰り返した。

「こうなるんだな」と身を持ってわからせてくれる。


「私はそういうのないんだけど、友達が受けてるみたいなの」


「あらそれは大変じゃない。力になってあげなさい」


「そうはいっても……」


次の日、友達に会うと昨日テレビで見たことをそのまま話した。


「……というわけだから、無視するんだよ。無視」


「うん、無視はしてるんだけどね……ずっと送られてるの」


「ええ……?」


なんてガッツのある嫌がらせ人なのだろうか。


サバサバ系とされる私とは正反対に友達をたとえるならウサギ。

魚と小動物ではやはり違うのだろうか。


友達はおとなしい性格で怒ったところを見たことがない。

そういう反撃のしない性格につけこんで脳内DMを連投しているのか。


「なんかだんだん腹たってきた……」


「脳内DMに困ってるの私だよ。どうして?」


「私、昔から小動物をいじめるような人って大嫌いだから。

 脳内DMを送ってくる人はわかっているの?」


「ううん。ぜんぜん心当たりない」


「じゃあ一体誰が……」


もしかすると、友達のストーカーかもしれない。

どこかに隠れて友達の脳内にDMを延々と贈り続けて悦に浸っているのだろうか。

「彼女の脳内を僕で満たしたい」とか考えてそう。


「今、こうしている間も意味不明なDMが頭に入ってくるの。

 もう普通に勉強なんてしていられなくて……」


「そんな……警察とかに助けてもらえないの?」


「行ったけど、脳内DMだから私の嘘かもしれないから協力できないって」


「はぁ!?」


「……まあ、私が我慢すればいいだけのことだから……」


「我慢しなくちゃいけないってのがまずおかしいんだよ!」


友達を助けたいと心から思った。

ひらめいたのはひとつの案だった。


「ねえ、脳内並列化してみない?」


「並列化って……。そんなことしたら、そっちにも私の脳内DMが来ちゃうよ!?」


「それでいいの。友達の頭にばかり脳内DM届き続けるよりも

 その負担を私の方に分散できればそのほうが良いでしょ?」


「本当に……並列化していいの?」


「もちろん。それに私の方にも脳内DMが届けばそれを証拠として出せるでしょ?」


私達はお互いをハグして脳内を並列化させた。

お互いの考えていることも共有できるようになり、脳内DMも共通化された。


「これでどんな脳内DMが届いても大丈夫。私が相手をつきとめてあげる」


「ありがとう。私、ずっとどうすればいいか悩んでたの」


「もうやられっぱなしにさせないから! どんな意味不明な脳内DMも任せて!」


私達が脳内を並列化させたことをなど知らない相手はいつもの調子で意味不明な脳内DMを送り続けた。

私の脳内でも確認できるそのDMを見て悟った。


「これが意味不明なDM……」



しばらくして、私が解析を終えて戻ってくると友達が真っ先に声をかけた。


「おかえり。脳内DMの意味わかった?」


「うん。少なくとも、ストーカーじゃなくてよかったよ……」


私は航空宇宙局から持ち帰った脳内DMの解析文書を友達にも見せた。

友達にずっと届いていた脳内DMの意味が書かれていた。



>地球人がずっと既読スルーしてまじつらたん。。。。

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