第12話・橙は離さなかった


翌朝。


僕達は先生からの連絡を待っていた。

しかし、いつまで経っても連絡は来ず。お葬式が始まる10時になってしまった。


(これは、休みという事かな……?)



******************************



オレは今日が休みになったと判断すると。つばさくれないを昼飯に誘った。


翼には最初、先生からの連絡が遅れて来るかもしれないと言って断られたが、30分後に『一緒に飯食いに行かせてもらってもよろしいですか?』というメッセージが来た。かわいいやつだ。


公園に集まるように伝えると、服を着替えて出かける準備をする。


集合場所に指定した公園は、オレの家から徒歩5分の所だったためすぐに着いた。


10分程待つと、2人がやって来た。


「よー!あかつき!待ったかー!」

「待ったわ!10分も!」

「10分だけかよ!」


オレ達は笑いながら、飯の行く先を決める。


その時だった。


いきなり女が泣きながら、オレに抱きついてきたのだ。


「は?」


思わず間抜けな声を出してしまう。


オレは彼女が誰か気付かなかったが、翼は分かったようだ。


「……君は、竹山たけやまさん……?」


女は黙って頷く。


「お、おい、どうしたんだよ」

「だ……、い…ち……」

「は?」

「だ、だだ、」

「ちょっ、お前落ち着け!1回離れろ!深呼吸しろ!」


彼女が深呼吸をしている間に、今度は別の女がやって来た。


空色そらいろさんまで、どうしたの?」


彼女は震えた声で話した。


香苗かなえちゃんを……!助けて下さい!」


と。



******************************



私達は10時を過ぎた瞬間、近くの商業施設に集まった。


「結局、葬式行かなくてよくなったのかな?」

「そうなんじゃない?」

「だとしてもさ。無くなったのなら無くなったで連絡をくれてもよかったよね?」

「「それな」」


私達は11時ぐらいまではそこでショッピングなどをして時間を潰した後。近くのファミレスで昼ご飯を食べる事にした。


「そこに行くのなら、近道知ってるよ」


私は2人を近道まで案内する。そこは電車の線路下のトンネルのような所だ。


「え、ここ?何か怖くない?」

「大丈夫だよ早く行こ?店の中いっぱいになっちゃうよ?」


怖がる香苗かなえちゃんを、半ば無理やり連れて入る。


このトンネルのような道は、距離が40メートルぐらいあって意外と長い。


その真ん中辺りをだろうか、男の人がこちらに背を向けて立っているのが見えた。


「なに……、あれ?」


あいちゃんが私にくっつく。


「私も、……分からない」


明らかに異様な存在に皆怯えていたが、ここを通らなければ目的地には着かない。できるだけその男を見ないようにして横を通り過ぎようとした。


その時だった。


男の人がその場でクルリと向きを変えたのだ。


(彼は何をしているのだろう…?)


不思議に思い、彼に振り返る。


そこで見てしまったのだ。




香苗ちゃんが男に首を切られて、その場に倒れるところを。




(え、)


上手く状況を飲み込む事ができなかった。


(なんで?香苗ちゃんが?殺されたの?私も?彼女は生きてる?死んでる?)


彼女を助けるべきか、逃げるべきか、私が判断を迷っている間に隣の藍ちゃんが駆け出した。


それにつられて、私も思わずその場から駆け出してしまう。


頭の中では助けなければならないと思っているが、身体が勝手にその場から離れようとする。


(ごめん!…ごめん!香苗ちゃん!すぐに助けを呼んでくるから!)


ふと、後ろを振り返った。


追いかけてくる男の足音が聞こえなかったからだ。


そこで私は見た。



香苗ちゃんが男の足を必死に掴んで、私達を追わせまいとしている様子を。


(あ……)


私はなんていう事をしてしまったのだろう。



そこからの事は覚えていない。気が付くと山吹やまぶき君達に助けを求めていた。


「香苗ちゃんを……!助けて下さい!」、と



******************************



オレ達は彼女らを落ち着かせつつ、詳しい話を聞きながら襲われたという場所に来た。


しかし、そこには何も無かった。


「え?」


空色そらいろが驚きの声をあげる。


一瞬、彼女らはオレ達の事をおちょくっているのかと思ったが。到底、助けを求めてきた時のアレが演技には見えなかった。


すると、くれないがその場にしゃがみこみ地面を触った。


そして、


「ここだけキレイだ」


と言った。


「キレイ?」

「あぁ、この道どうやらあまり清掃をされていないみたいだが。ここだけ何故か塵(ちり)一つない」


そう言うと、彼は空色に問いかけた。


「ここで、彼女は首を切られたのか?」

「は、はい……、ここで首を切られて倒れてたんです……。それなのに……、それなのに私達は!彼女を置いて逃げてしまって!それでも彼女は男の足を掴んでいてくれてたんです!私達を追わせまいとッ!」


空色さんはその場に泣き崩れる。


オレ達は彼女を慰めようとしたが、ただ1人真反対の声をかける者がいた。


美緒みおちゃん、あなたのせいでしょ?」


竹山たけやまだった。


「……え?」

「あなたが近道をしようって言ったからこんな道に入ったんだよ!?そこで香苗ちゃん……、ん!?待って! なんでこの道にアイツが居たの?そこになんで美緒みおちゃんは案内したの?たまたま?私はそうは思えない!」

「え?何を言ってるの!たまたまに決まってんでしょ!私が香苗ちゃんを襲わせるためにこの道をわざと通ったって言いたいの?」

「そうよ!」


「ちょっと!2人共落ち着け!」


翼が彼女らを止めると、紅は続きを話始めた。


「君達に助けを求められ、ここに来るまでかかった時間はだいたい10分ぐらい。そして、君らが襲われ俺達の所まで走って逃げたまでの時間をだいたい3分ぐらいとして。その男がここの血痕などの証拠を隠滅するのに使える時間は、彼が逃げる時間を含めないと8分程度。その短時間で全ての証拠を隠滅する事ができる者。間違いなくプロだろう。……そして、そいつらは決して失敗をしない」

「つ、つまり?」


空色が怯えながら聞くが、紅は気にせずにハッキリと言った。


「襲われた子は、殺されているだろう」



絶叫が響き渡った。



******************************



11時半頃。

クラスのグループチャットに1つのメッセージが届いた。


山吹君からだった。


そのメッセージの内容はとても不思議な物だった。



『今家にいる人は絶対に外に出るな、施錠を確認しろ。

外出中の人らは急いで家に戻れ、決して寄り道をするな。

今から1時間後ぐらいにおの々の家に向かいに行く。それまでに1週間分の食料衣類等を準備しておいて欲しい。家の中の物で足りなかった場合でも、絶対買いに家を出るな。詳しい事は迎えに行った時に話す』



なんだこれは。


意味が分からない文だったが、なぜか緊張感を感じる物だった。



(……よく分からないけど、とりあえず1週間分の準備をするか……)


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