第13話【若き勇者の悩み】
「ぼくの家は、代々勇者を輩出している王族の血筋でね――」
「ちょっと待って」
語りだすキッドを桃也は制止した。
「一応確認なんすけど、それ、本当の話っすよね?」
「はは……。君、この状況で僕がホラを吹くと思うのかい……?」
キッドは空笑いをした後、生気のない目で訴える。
「すいません……」
猛省する桃也。死体を蹴るような真似をした自分を恥じる。
「王族といってもね、まぁ遠い親戚がプロスポーツ選手ってくらいの感じでさ。それでもそこそこ有名な家柄には違いなくて、それなりに世間の目を気にする堅苦しい家系にぼくは生まれたんだ――」
キッドは夕陽に目を細めながら訥々と語り始めた。
その横顔は愁いを帯びていて、桃也はキッドの口先だけのお調子者なイメージが覆っていくのを感じた。
キッドの家は先の発言通り名家である。代々勇者を輩出している家系で、当然その期待は長兄であるキッドにのしかかるのだが、察しの通り彼にはその才がなかった。
勇者といえば、強く逞しく正義感に満ち溢れていなければならない。キッドにはその全てが当てはまらなかったが、やさしさだけは持ち合わせていた。本人に勇者になりたいという強い志があるはずもなく、将来は公共浴場の番頭になりたかったという。
キッドには二つ年の離れた弟がいた。それも自身とは正反対のできる弟だ。勇者を輩出する家系では、長兄が勇者となり世継ぎになるのが習わしである。だが、期待外れの兄よりも弟の方が勇者にふさわしいのでは?という視線がキッドを長年苦しめた。周りの人間だけではなく、父親でさえ彼を見る目は冷ややかだった。そんな兄に対し、弟は嫌悪感を抱いていた。自分より劣る兄がなぜ勇者になるのか。その疑問は成長と共に憎しみへと変わっていったのだ。
そんな状況の中、キッドは18歳になったその日に家を飛び出した。自身を鍛える修行のため、救世主となり異世界をまたにかける冒険に出たのだ。別に勇者になりたいわけではない。ただ、父親と弟を見返してやりたいという一心で――。
「俺の世界でも、似たような事はよくあるっすよ」
桃也は紙袋の中に手を入れながら言った。
「医者の息子だったり社長の息子だったりの、兄弟の確執ってやつ? 跡継ぎだのなんだのって。なんつーか、よくある話っすね」
桃也はキッドに酒瓶を差し出して続ける。
「まぁ、飲みましょうや。パーッと」
キッドはキョトンとして桃也を見つめる。
「……彼女に怒られても、知らないよ?」
「こんだけありゃ、足りないってことはないでしょ」
キッドは小さく笑ってから酒瓶を受け取る。
「君は飲まないの?」
「一応、未成年なんで」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
キッドは酒瓶を開けて勢いよく酒をあおる。桃也の目からは、心なしかキッドの足取りが軽やかになった気がした。
∞∞∞
城門に着く頃には、キッドはベロベロに酔っぱらっていた。
夕食の時刻は遥かに過ぎてしまっている。というのも、酒を一口飲んで酔ってしまったキッドが寄り道を繰り返し、それに桃也が付き合ったためである。
「なんらよ、門が閉まっれるやないかー」
呂律の回らないキッドが不満そうに言い、門をガンガンと叩く。
「ちょっと、やりすぎっすよ!」
桃也が止めようとすると、離れた場所にいたらしき衛兵二人が駆け寄ってくる。
「何者だ! 貴様ら!」
当然そうなる。
「いや、我々は別に怪しいものでは――」
桃也が訴えるも、
「動くな!」
と、槍をむ剥けられてしまう。
「ちょっ……! だから、俺たちはあんたらを救いに来た救世主で――」
(——って、どう証明すればいいんだ?)
桃也は動揺し、コンに助けを求めようとするも姿が見えない。
(コンの奴、どこいった? しばらく姿を見てねぇけど……)
「なんらぁ? やんのかコラァー!」
気の大きくなったキッドが衛兵を睨みつける。いまにも面倒が起きそうな気配である。
「うるせぇなぁ、いったいなんの騒ぎだ」
すると、衛兵の背後からそう声がした。
「「はっ!」」
二人の衛兵が慌てて敬礼をする。
「怪しい者が門の前におりましたので、尋問していたところであります!」
「怪しい者だぁ?」
そう言って顔を覗かせた男を見て、桃也は息を呑んだ。
男の顔には見覚えがあった。数時間前、酒場でマキナにボコボコにされた、あの男の顔だった。
パンツはおやつに入りますか? ~片道切符の異世界渡航~ 侘助 @wabisukebe
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