穏やかな陽気の中で
鈍行列車の心地よい揺れが眠気を誘う。
幸せだ。
この春の穏やかな日差しも相まって、昼下がりの電車内は外とは別の緩やかな時間が流れているように感じた。
重い瞼を必死に持ち上げながら電車内を見渡す。
乗客はまばらで、そのほとんどの人がウトウトしている。
やはりみんなこの心地よい揺れと春の陽気が醸し出す睡魔には抗えない、か。
——列車が駅に停まってドアが開く。
春といっても風はまだ少し冷たい。
ドアから入ってきた風が私の眠気を拭い去っていく。
冴えた私の視界に一際目立つ赤茶色の髪をした青年が入ってきた。
なんだかチャラそうだな。
そう思っていた矢先にその青年が私のすぐ隣に座る。
席はたくさん空いているのに、なぜ私の隣にあえて座るの。
とにかく警戒する。
「やあ、久しぶり。大学の帰り?」
どうやら相手は私を知っているようだ。
無邪気に笑ったその顔を注意深く見つめる——わかった。
小学、中学と一緒の学校だった同級生だ。
それにしても、その変わりようには驚いた。
これが大学デビューというやつなのだろうか。
それから私たちは小学生や中学生の頃の思い出話に花を咲かせた。
例えば小学五年生の頃、自然教室で夜中トイレに行くのが怖くて、一緒に行ったこと。
ようやく着いたら、お互い気付かず男女逆のトイレに間違えて入ってしまったこと。
懐かしくて、本当に笑ってしまった。
退屈だった通学時間はその日以降、とても楽しいものとなった。
何回か一緒に出かけることもするようになった。
正直、私は青年に告白してもらおうと、様々な戦略を練っていたのだけれど、当の本人はどうも気付いていないようで。
何をやっても告白しようとしてくれない。
もどかしかった。これで最後にしようと決意したデートでも、とうとう何の進展もなくお互い帰路についた。
もう諦めよう。
相手にその気はなかったんだ。
失意の中歩く。
唐突に背後から声をかけられた。
驚いて振り向くと、そこには青年の姿があった。
顔を真っ赤に、息を切らしながら、彼は私に自分の想いを伝えてくれた。
嬉しかった。
嬉しさで心がいっぱいになって、自然と涙が溢れた。
私たちはその日から付き合うことになった——
そう。
これは過去の記憶。
目を擦る。
春の魔力が私に過去の夢を見せたようだ。
懐かしい、私がまだ十代だった頃の春の思い出。
就職活動が始まった時にお付き合いは終わってしまったけれど、今も交流は続いている。
彼も頑張っているみたいだし、私も前に進まないと。
ああ。恋がしたいなぁ。
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