孤独の殻

 雨。


今日は一日止む気配がなく、雨粒がひたすら道路を叩いている。


そこら中水たまりだらけだ。


雨粒が落ちて幾重にも重なった波紋が、それぞれの個性を際立たせている。


そんな水たまりでさえ自らの個性を恥ずかしがらずに発揮しているわけだけれど、私にはそれを出すことができなかった。


だからただ一人、私はみんなで楽しく会話をする同僚たちの後ろにくっついて歩いているのだ。


会話に混ざることは、ない。


 今日は久々の飲み会だった。


大人数の飲み会は苦手だ。


今回もやっぱりその場に馴染めなくて、早く帰りたい、とか思いながら過ごしていた。


それがこの結果だ。


どうしても馴染むことができなくて、実際一人孤立してしまうと寂しいと思ってしまう。


私は面倒くさい人間だ。


 駅前のロータリーでみんなが歩みを止める。


どうやらコソコソと二次会の予定を話し合っているようだ。


時間は既に夜の九時を過ぎていた。


「これからどこかに行くの?」


 勇気を出して聞いてみた。


みんながこちらに注目してくる。


正直二次会に行くかどうかなんてどうでも良い。


ただ、私の中で孤立したくないという感情が大きくなった結果の問いかけなのだ。


「どうしようか迷い中だけど、あなた電車は大丈夫? 家、遠いんでしょ」


 同僚の一人が、私を気遣うように言った。


でもその表情を見て、私は複雑な気持ちになった。


明らかに嫌がっている。


考えてみればそうか。


楽しいお酒の席に、ただ一人何も話すことなくそこにいる。


話題を振られてもうまく返すことすらできない。


盛り下がることこの上ないだろう。


「うん、そうだね。ありがとう。私帰るね」


 みんなが口々に「お疲れ」と言って、こちらを見ることもなくそのまま夜の街に消えていった。


私はいてもいなくても変わらない。


あの人たちにとって私は存在しないようなものだ。


孤独。


私は孤独だ。


この職場に、心を開いて話ができる人なんていない。


 改札を定期券で通り、ため息をつく。


やめよう。


考えるのは。


職場は仕事をする場だ。


仲良しごっこをする場じゃない--嫌だ、もう考えたくない。


 私は考えることを無理やり止めようと、イヤホンをして音楽を流す。


帰りの電車はまだ来ない。

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