それでも日常は続いていく。
紀乃鈴
旅の合間に
視界いっぱいに広がる青々と生い茂った木々とその隙間から注ぐ木漏れ日が、風を切って次々と後方へ流れていく。
時期が五月ということもあって、肌を撫でる風は暖かく心地が良い。
少なくともずっとずっと先に見えるカーブまではこの幻想的で癒される道が続く。
まだ道が続いているんだということを実感すると共に、心がダンスを踊るかのように高鳴っているのを感じた。
自然とアクセルを開けていく。
ギアを変えてスピードを上げる。
すると当然のことながら景色の流れていくスピードも上がって。
それに比例するように私の中のわくわくも積み重なっていく。
木漏れ日のトンネルを抜けたらどんな景色が待っているのだろう。
早く見てみたい。
自然と顔が綻ぶ。
ほら。カーブを曲がると道が終わって、橋になる――。
瞬く間に視界が開けた。
雲一つない青空と、その中心で煌めく太陽。
左右には雄大な山々が立ち並ぶ。
「あ、っはは!」
つい笑みがこぼれた。
視界に広がる『自然』と私自身が一つになったような感覚。
私は今『自然』の中で生きている。
それを私の目で、耳で、鼻で。そして肌で余すことなく感じ取った。
『自然』は人間関係や時間に縛られてがんじがらめにされた日常から私を解放してくれるのだ。
まるで心が洗われて綺麗になっていくようで、気持ちが良い。
橋が終わる。左側は森に覆われたが、右側は崖になっているので相変わらず大自然はそこにある。
私は適度なところで路肩に止まった。
車通りの全くない道路を横断して、ガードレールに重心を預けながら、大自然を肌で感じる。
そして深呼吸。
肺に酸素が入ってくる時の感覚がいつもと違う気がする。
澄んでいるというかなんというか。
これが『空気が美味しい』ということなのだろうか。
暖かなそよ風が私の頬を撫でる。
いつの間にか、日常の中で抱えていた孤独や不安の一切が私の中から消え去っていた。
大自然が、私を助けてくれた。
「私は、ここに、いるよ!」
叫んだ。
普段はできない、私の存在証明。
『自然』が、私を受け入れてくれる。
私はちっぽけな存在だけど、世界と一緒に生きている。
それを実感することで私はまた頑張れるのだ。
しっかりと『自然』を目に焼き付けて踵を返す。
私は路肩で静かに待つ相棒――エストレヤに向かって歩き出す。
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