妻を失った男、魂を与えられた人形、人形に魂を与えた人形師という登場人物が織りなす物語は、室町時代という時代設定も相まって、独特の雰囲気を持っています。
雰囲気に飲み込まれる文体で、そこで見る光景は、私は墨絵、水墨画の世界のような感じられました。墨の濃い黒と和紙の上質な白の背景に、極彩色の登場人物がいる、そんな雰囲気です。
そう感じるのは、やはり人を書いているからだと思います。
物わかりが良い訳ではなく、頑固なところも多分にあり、直情家の主人公二人は、どこか「この程度の事、いわなくても分かっているだろう」という風な人付き合いの下手な点があります。
その不器用さは色々な他の物語でも出てくるのですが、多くの物語では周囲が変節して丸く収まる事が多いのですが、本作は互いに互いの事を思う事で、その変化は変節ではなく深化、或いは成長といえるものによって治まった気がします。
それがあるからこそ、この物語の結末が納得できるものになったのだ、と私は思っているのです。
幸せに物語なのです。