第八章 元彼女の存在

Y美との時間は楽しかった。

でも、私には彼女と呼べる存在の人が居たんだ。


それは以前に付き合っていた『S子』だが、正確に言えば『元彼女』だ。

彼女とは一年前に私が一方的にフラれて、そして彼女から連絡があって再会したのである。

全ては彼女任せの別れと再会であったが、心底好きになった人をすぐに忘れることって到底できることでは無いと分かっていた。


やはり自分は人に流されやすいタイプなんだと実感もしていた。

でも、本当に大切な人が出来たのであれば、その人の為にも元彼女S子との関係にケジメをつけないといけない。


人間の恋愛に関する感情には、二つのタイプが存在すると感じていた。

それを例えるならば、Aタイプの人は恋愛における『100%の器』を持っている人で、Bタイプの人は『複数の器』を持っている人だ。


Aタイプの人は二人同時に好きな人が出来ると、それぞれの相手に対して割合で愛情を抱き、全体で100%になる愛情の器がある人。

Bタイプの人は現在の相手に対して『100%』だが、新たに好きな相手にも『100%』と全体の絶対量が『200%』になる器の人なのだと。


私は前者のタイプだと実感する。

二人の相手を同時に好きだと言っても、実は片方の相手と居ても上の空な時があると分かったからだ。

元彼女S子と一緒に居る時でも、実はY美のことを思い出していたんだ。

だから私の心の器は、いつしかY美で満たされて行くことが分かった。


人間の人体細胞は日々生まれ変わっている。

だからS子と付き合っていた当時の自分と、今の自分とでは細胞レベルで全くの別人になってしまったのだと。

そして人間の記憶を司る海馬や大脳は、ポジティブに捉えて『忘れる能力』があるのだという。

過去の痛みや苦しみを忘れることで、人は自分自身を守っているとか。

いつまでも苦い記憶を忘れられないと、人は過去の苦しみに耐えきれず生きて行けないからだと思う。

だからS子と別れた『痛みや苦しみ』と同時に、S子を『好きだった』という恋愛感情も過去のものとなり忘れて行ったのかもしれない。


そしてS子を想う気持ちは、恋愛感情では無く『慈悲の心』なんだといつしか気が付いた。

S子と一緒に居ることは、彼女を幸せにしてあげられなかった自分自身の罪滅ぼしなんだと。

彼女が私と一緒に居ることを望むのであれば、それが私の本望だといつしかなっていたんだ。


そして脳や身体の変化は分かったが、自分の心はどこにあるのか説いてみた。

心ではS子と再会することを待ち望んでいた自分ではあったが、正直に言えば彼女と再会をしても、自分が望んだことではなかった。

それは私自身が変わってしまったように、S子自身も別人になってしまったからだと感じていた。


『好きか?嫌いか?』『YESか?NOか?』と、白黒をハッキリするならば、S子との関係はNOだった。

そんな感情でS子と居ることも申し訳なく思へて、そして私はS子へ別れを告げることになった。

彼女もその結論にはアッサリ承諾をして、そして二人は別れると言うよりも、もう会わないことになったんだ。


そして晴れてフリーの身となった私だったが、元彼女と別れたことをY美へは告げなかった。

いや、正確に言えば私がその事実を告げる前に、Y美と別れることになったからだ。

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〖真実の愛〗エピソード④~心奪われたY子編~ YUTAKA @TETSUO7

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