第七章 永遠の愛
彼女と初めて結ばれたのは、名古屋にある「ケントス」へ出掛けた夜だった。
ケントスはオールディーズの音楽が基調なダンスホールがあるバーだった。
『一緒に踊ろうよ♪』
彼女から誘われるがままダンスが苦手な私はホールに立った。
ダンスが苦手ではあったが、踊ることよりも彼女と向き合って会話を楽しんだ。
艶やかなスポットライトのダンスホールと暗がりにひっそりとたたずむテーブル席があり、時にはジャズシンガーが歌う甘い歌声に合わせて、チークダンスを踊るカップルで賑わっていた。
『今夜はその衣装が素敵だね』
私は彼女の腰辺りにそっと両腕を廻して、彼女は私の両肩へ腕を乗せて二人は軽いステップを踏みながら、ゆっくりとゆっくりとホールを周回していた。
スポットライトの当たらない端の場所で、私は彼女へ軽い口づけを交わした。
そして何事も無かったかのようにダンスホールへ戻り、またチークを二人で踊っていたんだ。
70年代のアメリカ音楽と言えば映画の「スタンドバイミー」を思い出す。
普段はジャズを聴かなかったが、サックスとピアノのハーモニーが心地よく心に響いてくる店で、Y美ちゃんは年に何度も足を運ぶほどお気に入りのようだった。
彼女はピアノの演奏曲も好きだった。
なかでも坂本龍一さんの『未来派野郎』というアルバムをよく聴いていると、彼女から聞いたことがあった。
『それ!自分もよく聴いてるアルバムだよ』
私も坂本龍一さんは『YMO』時代からのファンだったので、過去の作品も全て知っていた。
そして、私からは『戦場のメリークリスマス』の演奏が好きだと言うと。
『いいよね!頭の中でリロードする作品よね♪』
そう言って彼女も共感してくれた。
帰りの車中ではそんなクラシックな音楽も掛けながら、二人の会話は音楽の話題も弾んだ。
助手席に座る彼女の潤んだ瞳が、繁華街のネオンに反射して綺麗に映し出されていた。
彼女の容姿が綺麗と言うこともあったが、既に私は彼女の全てが美しく美化して見えてしまうのだ。
そして、今宵のダンスの余韻に浸りながら、夜更け遅くに彼女と私は自然体で結ばれたんだ。
一糸纏わぬ姿になった彼女は、自分の肌を見られるのが嫌いで、彼女と初めての夜は女の顔しか見れなかった。
女性というものは大なり小なり、そんな姿を見られることが恥ずかしいのだろうと理解はしていた。
「男性は目で恋をする、女性は耳で恋をする」
そんな例え言葉があるように、男性は女性の見た目で恋をする生き物でもあるのだろう。
そうすると女性は愛の囁きなんかで恋をするってことなのかな?
すでに彼女と出会って3ヶ月が経過していた。
そして関西方面へ泊まりで旅行にも出掛けた。
神戸では昼間の観光で水族館を巡り、夜には港から出向するナイトクルージングにも一緒に出掛けた。
『凄く綺麗な海だね♪』
彼女はクルーザーの窓際に立ち、陸から照らされる灯りに浮かぶ夜の海を眺めてそう言った。
『ああ!Y子より綺麗なものは無いけど』
私は心から思ったことを言葉に表現してみた。
『それって誰にでも言うTETSUOの台詞だよね?』
私の左手を掴みながら、彼女は笑顔でそうお道化て見せた。
『あ!バレちゃった!!!』
彼女も私の内心を知っていて、そんな冗談が言える仲になれたのだと実感した。
当たり前のことではあるが、好きな人と素敵な場所へ行くことが一番楽しいに決まっている。
だからそのひと時は至福の絶頂でもあったのだ。
こんな時が「永遠」に続けばいいと願ったが・・・
「永遠の愛」なんてものはこの世に存在はしないのだ。
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