第六章 何気ないサプライズ

彼女は何故か仏像が大好きだった。

それも大きな仏像ほど好きで、東大寺や鎌倉にあるデカい大仏が好みだった。

理由は詳しく聞かなかったが、その大きな容姿が好きなようだ。


『また大仏を見に行きたいなー♪』


そんな彼女の期待に応えようと、私は最寄りの仏像を検索した。

そして平日の仕事帰りにも、仏像を拝見しに一緒に彼女と出掛けたのだ。


愛知県では江南市にある線路沿いの仏像とか、東海市にある山の頂にある仏像を、夜な夜な眺めにライトを持って行き、その行動はエスカレートした。


『ライトの灯りで見る仏像って迫力あるね♫』

そして、その『仏像ツアー(仮名)』は、いつしか岐阜県の山中にある大観音を見に行くまでになっていた。

そこまでの往復距離はかなりあったが、彼女が喜ぶ顔を見れるのであれば、私はそれだけで達成感に満たされた。


『凄く大きくて迫力あるよー 』

彼女もその仏像ツアーへ行く度に、歓喜の声をあげて喜んでくれたからだ。


ある夏の終わりの仏像ツアー中、山中で車を停めて休憩をしていると、夜空には溢れんばかりの星空が見えることに気付いた。

日常生活の灯りがある場所では見られない素晴らしい光景に、しばし彼女と夢中になって星の観測をした。


『素敵な星空ね~』

彼女は両腕を大きく広げて、天にかざして星空を満喫した。

キラキラと輝く星空に照らされた、彼女の横顔が暗闇に照らし出されて、夜空の星以上に光り輝いて眩しく感じた。


『うん!Y美の方が輝いて見えるよー』

星座の名前をサラっと解説できる男って、カッコいいと思われるだろうけど。

こう言うことがサラっと言える男って、軟派な奴だと思われるかな?


『あはは~TETSUOありがとう!』

彼女はその言葉を素直に喜んでくれた。

暫く夜空を楽しんだ二人は車中に戻り、今度は夜景が見える場所へと移動をした。

私は夜景が良く見えるようにと運転席の窓を開けると、暗闇の中から小さな灯りが車中へ舞い込んできたのだ。


思わず私は、その小さな灯りを受け止めるように、両の手の平で優しく包み込んだ。

その小さな灯りの正体は、なんと蛍だった。


『凄い!凄い!蛍を捕まえたの!!!』

彼女は私の手の平に乗った蛍を見つめて、大きな声で喜びを表した。

それは、まるで大自然が私達を喜ばせてくれるためのサプライズだった。


『この辺りの水辺に生息してる奴なんだね!』

蛍は綺麗な水辺でないと生息できないから、そんな自然豊かな場所だと実感した。

もう夜も更けていたが、彼女は自然のシチュエーションを満喫していて、もう暫くここで蛍を鑑賞することにした。


『TETSUO!今日もありがとう!』

その彼女の何気ない一言が、私にとって最大級のサプライズだと実感した。


『また、次回もサプライズ考えないとね 』

そうそう彼女を喜ばせるサプライズは難しいだろうが。

彼女と一緒に居る日々こそが、私にとって何気ないサプライズなんだと実感した。

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