新型ノベルウィルス〜コロナ禍の裏で蔓延するもう一つのウィルス〜

黒瀬 カナン(旧黒瀬 元幸 改名)

新型のウィルス

このご時世にこんな事を書くのは不謹慎かもしれないが、2020年、中国発の新型のウィルスが世界中に蔓延した。パンデミック状態に陥ったウィルスに人類は悪戦苦闘し、未だ治る事を知らない。


そんな中で学生達は休校になり、大人もステイホーム……活動自粛で自宅で過ごす事を余儀なくされた。


長期休暇でもないのに、パッと湧いて出た長い休みに、一部の学生は遊びに行く人間がいるようだが、僕のような真面目な人間は自宅で待機をしている。


しかし、突然の休みで外出予定もない身体はすぐに暇を持て余し、新たな暇つぶしを探し出す。


今の時代はネットを使えばゲームや漫画、動画と言ったコンテンツがあり、暇つぶしには持ってこいだ。


かくいう僕も探した甲斐があって、とあるサイトにたどり着く。


……小説を無料で読めるサイトだ。

このサイトはプロが書いた作品はもちろん、素人が書いた作品もあり、探し出せば自分の好きな作品を読む事ができる。

そして、自分で書いた小説を手軽に人に見てもらう事もできるのだ。


……何と素晴らしいサイトなんだろう。

僕は一瞬でこのサイトの虜になった。


だが、この時の僕は気がつかなかった。

誰も知らないとある重大な感染症に罹患していた事を……。


では罹患するとどうなるのであろうか……。

僕が罹患した経緯と病状についてみて行こうと思う。


自宅謹慎で時間がある僕は無数にある作品を読み漁る。異世界ものから恋愛もの、はたまた性転換ものまで様々な作品を読んでいく。


そんな中、とある作家さんが男女の恋愛ものを背景描写から心理状態まで細かく表現した話にたどり着く。


僕はこの話を読み進めていくうちに、ヒロインだけでなく、男主人公との焦ったい関係にも心を打たれ、感動した。所謂“尊死"と呼ばれている状態だった。


それだけ楽しい小説を書ける人がいるのかと知ると羨ましくなり、自分も書きたいと思うようになる。

この状態がこのウィルスに罹患した患者の初期症状なのだ。


そして、拙いなりにも文章を手打ちしていく。

ここで書き上げられるか否かで今後の感染の状態が変わってくるのだ。

書ききれなければ未だ回復の見込みはあるのだが、書き上げてしまうと、病状は徐々に悪化していくのだ。


書き上げた作品は私小説としてネットにアップされる。

中にはクラスターと呼ばれる評価の高い作家がいるのは事実だが、素人がUPした処女作をすぐには誰も読んではくれない。


ここで諦め、病状を回復する人も多いのだが、それでも諦めきれずに細々と小説を描き続ける。

気づくと手にはスマホを片手に、いつかは誰が読んでくれる事を願ってはpv数を追う。


初めてpvがつくと嬉しくなるのだ。

そして、徐々に増えていくpv数に喜びを覚える反面、爆発的に増えないpv数に自分の小説にもどかしさを覚える。

面白くないのかと自問自答するようになる。


キャラの魅力は?作風は?文章は?と悩み続ける。それでも書き続けて行くと、はじめてのブックマークがつく。その瞬間、書いている事を認められた瞬間になり、執筆に熱が上がる。

それと共に、pv数の動向をますます追うようになる。


だが、ブックマークが一つ増えたからといって、劇的にpv数が増加するわけではない。

なのですぐにモチベーションは下がってしまい、病状回復傾向へと向かって行くのだが、そこで厄介なものがある。


それはいいねシステムだ。


読者が読んでくれ、話が楽しいと感じてくれるとつけてくれる最もお手軽な評価システムだ。

そのシステムのおかげで回復しかけていた病状も再発する様になり、再び熱が上がってしまう。


すると再び数字に追われるようになり、数を求める。

だが、求めるからには対価が必要だ。

その対価とは、やはり書く事だ。


1日1話を目標に、話を書いて行くと徐々に人目につくようになり、pv数が上がる。


1日10pv有れば満足だったpv数も、50pv、100pvと得られるようになると、かつては満足していた数字に不安を覚えるようになる。

もっと、もっとと求めるようになるのである。


そこで心が折れると病状は回復に向かうが、予期せぬものにより、病状が悪化して行くのだ。


レビューポイントだ。

レビューポイントはいいねより手間が掛かり大抵の人はスルーしてしまうのだが、中には拙作を気に入り星をくれる人がいるのだ。


するとますます泥沼に浸かってしまい、抜け出す事が困難になってしまうのだが、人生は上手くいかない。


話を長く上げて行くと、pvは増加して行くのだが、一つ一つのpvの意味合いが薄くなってしまう。

もっと評価が欲しいと願うようになり、ツイッターなどで拙作を晒すようになるのだ。


ただただ読んで欲しい。その思いだけなのだが、そうなってくると、もはや自分が感染源になっていると言う事を当の本人はそれを知らない。


この程度の作品で評価をされるのなら私も書こうやこんな作品を書いてみたいと言った潜在的保菌者に感染が広がっていく。


こうして自らも感染源となりながらも、執筆と研究の日々を重ねる。その結果、魅力的な文章を書きたい、流行を知りたいと、他者の作品を見て回る。


読んだ話の中には1週間で自分の数百倍、数千倍の評価を受ける人もいれば、自分より長く多く書いているはずなのに低pvに喘ぐ人もいる。


前者を見れば才能に嫉妬し、後者を見ると哀れむ。

そんな自分の心の醜さに苛まれながらも作品を描き続ける。


そして努力した甲斐があり、レビューにコメントがつく。


そうなってくると致命傷だ。


なぜなら、その事でpv数が爆発的に上がる。

ブックマークやレビューポイントに繋がればpv数は伸びるだろう。そこから数珠つなぎにブックマークやレビューポイントがつけば上位ランカーも見えてくる。


だが、そう簡単にはいかないのが現実だ。

その日限りの爆発はすぐに終息し、再び低pvに悩まされる。そして、再度pvが伸びないか、日に何度もpv数を確認する作業が日課に加わる。


そうなったらもはや治療は不可能だ。

心が折れるまでは描き続け、そしていつの日かランキングに!!と言う気持ちが溢れてしまう。


そして、物語を考える日常が当たり前となり、生活の半分が話の内容を考える事で埋め尽くされる。

どうしたら楽しい文章になるか、どうやったら読んでもらえるのかを考え続ける毎日が続く。


すると、気づいた時にはフォロワーが増え、星が増え、注目の作品に挙がるようになる。

そうなればやる気が最高潮になる。


自分の作品が注目されてていると言う、勘違いにも似た思いで筆を取り続け、ランキングに載るようになると最早、末期だ。もしかしたら書籍化をするのではないかと言う気持ちに駆られ、作品を上げ続ける。


ランキングから落ちたくないと言う気持ちに蝕まれ、毎日作品を上げ続ける事に固執し、クオリティーを度外視で話を上げるようになる。


それを読者は見透かしたかのように、反応は薄くなってくる。pvは増えるのに……だ。そうすると、今まで楽しかった創作が色を失い、辛さを覚える。


そうなると、2度と挙がることのないランキングに心が折れ、今までの情熱が嘘のように消えていく。

通常ならそこで心が折れ、筆を折り、作家モドキとして死んでいく。


生き残った人々も、夢と現実に幾度となく心折れながら、細々と話を上げていく。


いづれは上位ランカーになる事を目指して、いく日もいく日も小説を上げ続ける。


いつかインフルエンサーになる事を目指して……。


これを僕はコロナ感染者グラフを見て、pv数と重ねてしまった。この症状を、僕は執筆家のみが感染する『ラノベウィルス』と呼ぶ事にする。

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