コンセプトは双子

 前回、テーマとコンセプトの違いについて、自分なりに分解してみました。

 もう一つのラリーさんの教えは、コンセプトには二面あるという事。


 一人称、二人称、三人称、一人称的三人称などなど、文章をどう表記するか?

 その方法がコンセプトのもう一方を決めるらしい。


 前回、コンセプトとは舞台であり、レールを敷くようなものだと解釈したわけだが、それに加えて文章を書く時の表現方法をよりコンセプトに沿ったものを選ぶという事だろう。


 もう記憶が曖昧だが、どこかで誰かに「一人称と三人称を使い分ける事が出来る人は殆どいない」と、言われたことがある。


 確かに、無意識に得意としている書き方がある。

 僕は一時期まで、一人称でしか書いたことがなかった。

 ただ、ミステリーをやりたいと思い始めてからは、一人称だと読者に与える情報が少なすぎて、難しく感じたので、チャレンジしたのだ。


 最初は、全く使えなかった。凡人だもの、そうだもの。


 難しいと言われても、不可能ではないのなら、やってみる価値はあると思って、三人称を使うようになって数年が経つけれど、僕が使っているのはまぁ、正確には一人称的三人称だ。


 どれを使えばいいのか? なんて、素人にはよく分からんと言うのが正直な所で、これを書くにあたって少々調べてみた。

 とはいえ、あんまり小難しいのでは、ここを開設した意味がないので、シンプルに解釈してみる。


 自分がこれから書こうとしている物語と、読者の距離をどうしたいか?


 これが選ぶ基準になる様だ。

 舞台上で、主人公となる主演と同じ位置に読者に居てもらうのが、一人称。

 二人称は、その主演の相手役が語ってお話が進んでいく。

 三人称は俯瞰。つまり、客席から広く情景を含めて読者に見てもらう。

 一人称的三人称は、俯瞰で見ている読者に、主演(主人公)の感情まで見えている、と言う状態だ。


 僕はミステリーにチャレンジし始めて、情景描写に力を入れたいと思い三人称を選んだ。

 それについては、間違ってなかったと思っている。

 

 ただ、「手持ちの部品で一番使えるヤツを使った方が出来が良い」と言うのも、確かにあるのだ。

 僕で言えば、無意識にでも一人称は使えるけれど、三人称は意識していないと使えない。

 きっと、誰にだってそういう得手不得手が存在していて、一番使える部品ではなくて、新しい部品を試してみる価値がないわけではないが、使い込まれた安牌は、それなりに出来上がりを良くしてくれる。


 ここがまた難点で、自分の書きたいものと、ソレが一致しない事がある。

 今、絶大な人気を誇るファンタジーはどうだろう?

 素人目線で考えたら、せっかくのオリジナリティ溢れる世界観を、一人称で書くのは勿体ない気もする。

 でも、主人公の感情に引き込みたいなら、一人称が一番いい。

 だから、そこにラリーさんの言ってることの肝があるんじゃないか?

 

 何が書きたいか×どう書くか=コンセプト

 

 単純に、選択の方法を分けるなら読者に【感じて欲しい】のか【見て欲しい】のか。

 そういう事になりそうだ。

 僕個人としてはミステリーの様に、現場の状況や、ストーリー構成、トリック、あらゆるものを読者に見せようと思ったら、三人称の方が向いていると思った。

 と言うより、一人称だと主人公の視点しかないので、死角が多くて読者に伝えるのが難しいと、感じた。


 使い分けることが出来ないんじゃ、選ぶことも出来ないじゃないか!

 

 確かに、そうだ。

 だから、得意な部品を使うのか、使ったことのない新しい部品を使うのか、使えない部品はそもそも機能しないわけで……。

 チャレンジしてみて、どうにも使い物にならん! と判断したなら、コンセプトそのものを変えてしまった方が、強い武器が作れる可能性があるという事だ。


 僕は情景描写が疎かになりがちなくらい、感情を描くことに没頭してしまう時がある。

 一人称の場合、意識してないと、主人公が滔々と自分の感情と葛藤していて、これは多分恋愛やヒューマニックなものを書くには向いているのだろう。

 別にソレが書きたいと、強く思っているわけでもないのだけれど、得意不得意で言えば、そういったものを書く方が強い剣になる。

 

 いろんなことが器用にできない凡人だからこそ、強みと弱みを知って、どう使うかを考えないといけない。

 右利きなのに、左利き用のグローブを慣れるまで使いこなしたって、右利き用のグローブ程のフィット感はないだろう。


 だから僕は、感情を追いたい作品では一人称、ストーリーを見せたい作品なら三人称(一人称的)を使うようにしている。

 ここ最近では三人称が多い気がする。


 僕は、僕が、僕には……ずっとそうやって、自分語りする作品は、内側へと向かう力が強くて、酷く暗くなる。

 (根暗なのが、もろに出ちゃうんだよ……)


 へたくそだって分かっていても、書きたいんだもの、しょうがない。


 最後に纏めると、コンセプトの双子は、こういう事だ。

 

 何が書きたいか(舞台設定)×どう書くか(読者の視点)=コンセプト


 今自分が書こうとしている武器は、読者にどんな風に見せるか。

 大きくて強そうか、古くて謂れがありそうか、ガラクタか。

 切っ先を向けられた読者が、どう感じて欲しいか。

 そこを書く前に、きちんと決めて走り出さないといけないって話。


 結果論、こうなりました。

 それじゃ、読者に切っ先が届かないよ、という事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者の剣の作り方 篁 あれん @Allen-Takamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ