《2》二人の過去
サンザの申し出に、キサラは戦力が増えるに越したことはないだろうと判断し答えた。
「わかった。リルやリュウキが戻ったら話をしてみよう。断ることはないと思うが」
「リュウキ……? リュウキって」
サンザは軽く首を傾げると、何やらもの言いたげな様子でイオを見下ろした。
「……あのリュウキよ」
イオはやや硬い表情で頷く。
「ラナイと一緒に来てたみたい。巻き込まれた時は別行動してたようだけど」
「そうだったのか。協力してくれてるってことはちゃんと話せたんだね」
「…………」
安心したように言うサンザに対して、イオは黙り込んでいる。
「……あれ、もしかしてリュウキとちゃんと話してないのか?」
問いかけるサンザに、イオは無言で肯定を示した。
「ちゃんと話せてないのに、神殿が襲撃されたことは話したのか……」
サンザは感心すべきか呆れるべきか悩んだ。
「仕方ないじゃない。あっちがいろいろ問い詰めてきたのよ。それに、誰かに何とかしてほしかったのは事実だし」
イオはもごもごと言い訳がましく口ごもる。
そんな二人のやりとりをキサラが眺めていると、不意に頭の中で静かな声が響いた。
(……見回りに行った神人たちが戦闘になっている。助勢した方がいいかもしれん)
姿を消したまま行動を共にしていたレトイの声だった。
「どうやら問題が起きたようだ。私は様子を見てくる」
何の前触れもなくキサラがそう言ったのでイオとサンザは瞠目する。
「え……それじゃ私も」
ついて来ようとしたイオに、少し間を置いた後キサラは首を振った。
「……いや、お前はサンザとここで待て」
イオが狙われていると聞いていたので共に行動すべきかとも一瞬思ったが、今は戦えるサンザもいる。それならば待っていてもらう方が安全だろう。
不安げな表情でイオはキサラを見たが、彼女の斜め後ろに立ったサンザが頷いた。
「わかった。この広間は僕とイオで見てるよ。気をつけて」
リュウキはたった今出てきた部屋を肩越しに見ながら口を開く。
「ここで最後だな」
「ハイ」
「じゃ戻るぞ」
踵を返したリュウキはワタサブローと共に集合場所の最初の広間の方へと足を向ける。
(ノイエスから連絡はなし、か。この社の結界柱も特に異常がなかったということになるな)
リュウキはもはや見慣れつつある通路を歩きながら思考を巡らせた。
(今までの結界柱には特に何か仕掛けられている様子はなかった。四つめのここが終わったら次は神殿だが……)
気掛かりなことが残る。
結界柱自体に仕掛けがないとすると一体どんな方法で街を沈める気なのだろうか。
このまま神殿に乗り込んでいいものかリュウキは決めかねていた。
(神殿への進入は問題ない。イオの話では社の転移陣を使ってそのまま入れる)
そこまで考えていたリュウキの脳裏に三年前の光景がよぎる。
――――ジェド兄ちゃんが死んだ……? 嘘……嘘だよね?
――――………………
――――だって、ちゃんと戻ってくるって言ってた! 巻き込まれたリュウキを助けたら戻るって……。一緒にいた天導協会の人だってちゃんと守るから心配ないって……
――――……イオ……
――――なんで……なんで!? ジェド兄ちゃんはリュウキを助けたのに、戻ってきたのに。どうしてリュウキはジェド兄ちゃん助けてくれなかったの!?
(…………今は関係ない)
どうやらイオ繋がりで思い出してしまったらしい。
(そもそも謝って済む問題じゃない。それに俺には許される資格などないし、許される気もない……)
リュウキは自分に言い聞かせ、その回想をまた奥深くに閉じ込める。
『リュウキさん、どうしまシタか? 思い詰めているように見えマス』
肩に乗ったワタサブローが問いかけてきた。
「……なんでもない。お前、無機物っぽいのにそういうのわかるのか」
「ハイ。ヒトの思考・感情回路は搭載済みデス。マスタの健康状態を把握するための手段の一つデスので。ただ、表情を分析して予測するのみで、ワタシ自身に感情はありマセン」
ワタサブローの説明を聞いている時だった。リュウキの体の奥で一瞬何かがざわつく。
「……!?」
突然のことにリュウキは体を思わず強張らせた。
(なんだ……? <虚獣>か?)
この感覚は<力>が何かに反応した感じだ。だが、周囲の気配を探ってみても何も引っ掛からない。
訝しげな表情を浮かべているリュウキの隣でワタサブローがあらぬ方向を見る。
「リルさんの生命反応が弱まっていマス」
「……なんだと?」
ワタサブローの不穏な言葉にリュウキは更に眉を寄せた。
「何者かと交戦中と思われます。向かいマスか?」
「案内できるならしてくれ」
「わかりまシタ」
彼の肩からふわりと浮かぶとワタサブローは勢いよく飛んでいく。リュウキはすぐにその後ろを走り始めた。
三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年― 阿季 @kareraki
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