第6話 四つ目の社にて・後編
《1》新しい協力者
イオは<
「……? どうしたのかしら」
そちらへ向かおうとするイオの肩をキサラは掴んで引き留める。
「新手の可能性もある。私が先に行く」
「! わかった」
二人が通路の入り口へ歩いていくと神殿関係者が数人集まっていた。その奥には青の縁取りのある白い外套をまとった一人の男が立っており、彼らは何か話しているようだった。
外套の下からは青と水色の長衣――神官服が覗いている。
キサラが見たところ、その神官服を着た男は捕縛陣の中にいた人ではない。
今まで巡ってきた<結界柱の社>ではならず者が神官に成りすましている事もあったのでその可能性も考えたが、なぜか緊迫した雰囲気というわけでもなかった。
「サンザ兄ちゃん!」
キサラの後ろからその男の顔を見たイオが声を上げる。
「イオ? 久しぶりだな」
灰褐色の柔らかな髪に端正な顔立ちの青年は嬉しそうに言った。
「知り合いか?」
「ええ、あの人は本物の神官よ。見てて」
キサラの問いかけにイオはそう答え、サンザの方へやや小走りで向かう。どうやら門番や社の職員と親しい神官が訪れていたようだ。
顔を合わせた二人は、まず首に掛けている長方形の銀細工をお互いに軽く掲げた。すると、やや上の方にはめ込まれた水色の石が一瞬輝く。
ちなみにこれは海底神殿に所属する神官や巫女同士でないと起こらない。なのでリルたちはこの現象をもとに疑わしい神官は本物かどうか確認していたりする。
挨拶を交わしたイオは意外そうに相手の顔を見上げた。
「二年ぶりだっけ。今日はどうしたの? 学術都市レアンデに刻印技術を学びに行ってるのよね。あそこ遠いからなかなか帰ってこれないって――あ、いろいろ聞きたいけど今大変なことになってて……」
こんなことをのんびりたずねている場合ではないとイオは慌てて話を変える。
「この人たちに聞いたよ。神殿や<結界柱の社>が襲撃されたんだとか……とにかくイオは無事でよかったよ」
サンザは安堵の表情を浮かべてイオを見ていた。
「僕の方はその実技課程まで修了したから一旦帰ってきたんだけど……その辺の話はまた後で。イオ以外にも誰か?」
周囲に視線を向けるサンザにイオは首を振った。
「ここには私しかいないのよ。ジェスナ姉ちゃんやミレイさんとかほとんどの人が神殿にいると思う。あとたまたまラナイも神殿に来てるんだとか……」
「ラナイも? そうなのか。間が悪い時に重なったものだね」
サンザは心配そうな表情で言った。
「まさかこんな大変なことになってるとは思わなかったよ。この社に来るまではいつも通りだったし……あれ?」
イオや神殿関係者の面々を見回してサンザはあることに気づいた。
「この社は取り返したところなんだよね? にしては神殿守備隊の姿が見当たらないような……」
怪訝な顔でたずねるサンザに、イオは表情を曇らせて答える。
「神殿守備隊は抑えられていて動けないのよ。街の警護団や天導協会に知らせたかったけど、それをしたら街を沈めると脅されてて」
「街を、沈める……!?」
イオの言葉にサンザは驚愕の表情を浮かべた。
「うん……だからどうしたらいいのか途方に暮れたんだけど、偶然街の中で聖騎士の人と知り合って。事情を話して今はその人と仲間の人が独自に動いてくれてるのよ。今は神殿内に残っている人がいないか確認しに行ってて、ほとんどここにはいないんだけど」
そこまで言うと、イオは後ろに立っているキサラを振り向いた。
「この人もその一人で、キサラさん。こっちはサンザ兄ちゃん」
「初めまして、僕は神官のサンザ。今回は神殿のために手を貸してくれてありがとう」
サンザは自己紹介すると感謝の意を述べた。
「キサラだ。……そういうのは早いんじゃないか? まだ解決していない」
対してキサラは短く挨拶したあと淡々とそう返す。サンザは軽く目を瞠ったが、すぐに笑み崩れた。
「そうだね」
素っ気ないようにも見えたが、ちゃんと最後まで協力してくれるらしい。
「にしても、まさか神殿守備隊もいないなんて……よし」
少し考えてサンザは決心したように言う。
「僕も協力するよ。神殿兵の経験があるから。さすがに部外者の人だけに任せておくのも悪いし」
「……しかし、今は違うのだろう?」
戦力として考えていいのかキサラは判断しかねた。
「まあね。元だからあまり役には立てないかもだけど……」
「何言ってるのよ。神殿兵になる前から強かったじゃない。あのね、サンザ兄ちゃんはむしろそのことを知った神殿守備隊に勧誘された口なのよ」
苦笑いを浮かべるサンザの横からイオが口を挟む。
「神殿兵の時は勝ち抜き戦で準優勝したこともあるし。見た目頼りなさそうだからそうは思えないだろうけど」
「……最後の一言いらなくない?」
「えー事実じゃない」
まったく悪びれた様子もない巫女の少女に優男風の神官は引き続き苦笑していた。
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