用語解説

 こちらでは作中用語の解説なんかを。分かるからいらないよという方はスルーしてください。ご興味おありの方はどうぞ。


 さて、作中出てきた音楽関連のことで個人的に面白いのは音楽修辞学。

 1600〜1750年くらいのバロック時代に特に盛んになった学問に、「フィグーレンレーレFigurenlehre」というのがあります。音にいろいろな意味を込めるのですね。

 作中に使ったものとしては……


 *パッスス・ドゥリウスクルス(「ギクシャクした動き」)

 半音進行を指します。半音階は悲しみや苦痛を表す典型的なフィグールです。

 ちなみに大きい跳躍や増減音程の不協和音程の跳躍(ドからオクターヴ以上下のシに下がるとか)になると「サルトゥス・ドゥリウスクルス」。


 *パッスス・ドゥリウスクルスのうち、低音が下行四度枠を作るものを「ラメント・バス」と言います。「ラメント」の名前通り嘆きを表すこと多し。モーツァルトの《レクイエム》、バッハの《ロ短調ミサ曲》の「Crucifix(十字架にかけられるところです)」では、バスがラメント・バスを繰り返します。


 *突然の休符 Abruptio

 予期しないところでの休符。フィグールの一つです。休符は中断ですとか、死を意味します。


 わかりやすい説明にこちらがあります。

全日本ピアノ指導者協会のホームページより

「音程から探ろう!」

http://www.piano.or.jp/report/03edc/point100/2010/11/19_11732.html


 *十字架音形

 音により何かを表す「音象徴法」の一つです。わかりやすい説明ないかな〜と探していたら、Wikipediaが結構、いい画像作っていました。

 https://de.wikipedia.org/wiki/Kreuzmotiv


 4つの音の端の二つを結んだ線と、中の二つを結んだ線が十字を作ります。それで十字架音形。

 音楽でキリストの十字架を表す方法は色々ありますが、その一つですね。


 これで全部かな? まあとにかく面白いんです。ファンタジー要素なお話なので結構適当に書いてしまったところもありますが。


 *死の舞踏(danse macabre, Totentanz)

 これは西洋で流行したモチーフの一つですね。絵画などでよくみます。骸骨が踊っているものです。こちらの『世界史の窓』というページが分かりやすく解説なさっています。

 https://www.y-history.net/appendix/wh0603_1-090_1.html

 絵画での実物は、ルツェルンに行ったときに橋の中だかにあった一連の絵を見ました。特徴的なのですぐ分かります。


 小説に関するのはむしろこれを題材にしたサン=サーンスの交響詩死の舞踏La Danse Macabreです。

 この作品はアンリ=カザルスの詩に基づき、死神がヴァイオリンを奏でています。その時の特徴となる音程が減五度(白鍵でいうとシ—ファ)という強烈な不協和音、禁じられた音程(後述。実際には効果のためにどんどん使います)です。

 ヴァイオリンの4弦は1番左が最も低いG線、その音です。そこから5度の間隔(ドからソの間隔)で調弦されており、上の二本のA線とE線は、指を押さえない開放弦でひけばラとミの音が出ます。これは綺麗な和音です。

 ところがサン=サーンスの作品の指示では、E線を半音低く調弦すること。こうすればE線は開放弦でミ♭が出るので、隣のA線と減五度を作るのです。

 こうして作られた開放弦による減五度で、死神が奏でる。これがサン=サーンスの死の舞踏の一つの特徴。フィカのヴァイオリンはここから来ています。


 ※トリトヌス(toritonus 三全音)

 文字通り、半音ではなく全音が三つの音程です。ピアノの鍵盤で言えば、白鍵と黒鍵の音程が半音、黒鍵を挟んで隣り合う白鍵の間が全音程。ですから白鍵だけで三全音を探すと、黒鍵を三つ挟んだ白鍵同士の間の音程ですからファとシです。(これをずらしてソとド♯、ラとレ♯(ミ♭)なども)

 おや、さきの減五度(ないし増四度)と同じです。

 この鋭い不協和音はその昔は「音楽の悪魔」という禁じられてもいた音程でした。この「悪魔の音程」、いわゆるクラシックの中では、マイナス方面の事柄を表現するためなど特殊な効果を狙って使われています。


 フィカの攻撃に使っています。悪魔なら音聞いても平気なのでしょうけれど、使役魔や小悪鬼は弱いのでダメ、的な設定にしちゃいました。


 *ピカルディー終止

 短調(マイナー・モード)の曲の最後の終止和音を長調の和音(メジャー・コード)にした終止です。

 例えば、ハ短調(Cマイナー)の曲の終止和音は短三和音(ドミ♭ソ)になりますが、ここでを長三和音(ドミソ)にするのです。主音ドから数えて音階三番目の音を、半音上げるのですね。明るい響きになります。

 例はかなり多いです。いろいろな曲で出てきます。


 *「純正」な響き

 調律法って色々とあるのですけれど。今、私たちに一般なのは十二平均律じゃないでしょうか。オクターヴを十二等分した音律です。しかしこれは綺麗な響きを作るには問題がありまして。

 和音の響きは、周波数の比が単純な整数比だと非常に美しくなりますが、十二平均律ではオクターヴのみが整数比で、他の音程に関しては比率は汚いのですよ。多くの種類の長短調が演奏できるという利便性から、美しい響きが犠牲にされているのですね。

 音程の周波数が整数比になるようにしたものが純正律です。とても綺麗な協和音が得られます。


 実際、ヴァイオリンの調弦を一度してしまってピカルディー終止を弾いた後に、同じ調弦のままで純正律の和音を出せるのか、私はちょっとわかりません。ですが、まぁ現実のお話ではないし、死神の楽器なのでご容赦を。


 上の説明記述にあたって一応確認しましたのが、

 参考:新編『音楽中辞典』海老沢敏他監修。東京:音楽之友社、2002年。

 以下オンライン版

 日本大百科全書

 旺文社物理大辞典

 デジタル大辞林

 日本国語大辞典


 *万霊節

 キリスト教の祝日で。「諸聖人の日」11月1日の次の日、11月2日になります。キリスト教のお盆みたいなものだよーと、以前教えてもらったのでした。死者が帰ってくるんですって。そしてみんながお墓参りに行くそうです。

 一応、きちんとした典拠がないものかと調べてみましたら、ネットで読めるもので以下がありました。

 上田重雄「中部ヨ-ロッパにおける年間習俗と聖者崇拝の研究」早稲田商学 (286), p680-623, 1980-12.

 万霊節についてはp. 669-671にありました。


 以上です。あまり詳しくなりすぎてもよろしくないので、かなり説明を端折りました(特に音律の話)。なので、ご興味のある方は本もたくさんあると思いますし! 

 これでもう少し、お話の中が面白くなっているといいな……と願うばかりです。


 お付き合いいただき、ありがとうございました。


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死神さんの初デート 蜜柑桜 @Mican-Sakura

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