第5話 機会

フォークダンスの練習が始まり、男子も女子も浮かれ気分で騒いでいた。


「俺、女子苦手なんだよな〜。」


絢斗は本当に困っていた。

まだ転校して2日だけど、絢斗は女子に限らず男子ともそんなに関わりを持っていないように見えた。絢斗が話してるところを見ていない。


「そう言えば、どうして絢斗は俺に声かけたの?」

「宙はね、みんなと違う気がしたなんか。あと、家近いから。」

「え、近いの!?」


絢斗は僕の家の後ろにあるアパートに住んでいるらしい。


「羽水は保育園も同じで仲いいんだよ俺。」


そう言って絢斗は笑った。

なんだか、僕がすごいちっぽけに思えた。


「俺、羽水と仲いいから、みんなが心の木をバカにしてる感じが嫌いなんだよ。」


周りにたくさん"そいつら"はいるのに、聞かせてるかのように絢斗は言った。


「絢斗かっこいいな。」

「え、何急に。」


僕は心の底から絢斗がかっこいいと思った。


「ほら、始まるから前むけ。」


先生が喝をいれると、フォークダンスの曲がかかりみんな踊り始める。

僕も前の学校の宿泊行事で踊ったから踊れた。


女子はその場に留まり、男子が順番に巡る。


話したこともない女子と手を繋ぎ踊る。

全然楽しくない。早く終われば良いのに。

絢斗を見ると同じことを思ってるような顔をしていて笑えた。


やる気なく巡っていると、最後の相手は那津だった。


僕はどんな顔をして良いか分からず、下を向く。


(今どう思ってるんだろう・・・。)


僕はそればっか考えていた。

僕も絢斗みたいだったらいいのに。


曲が終わり休憩時間になった。


僕がすぐにその場を立ち去ろうとすると、那津が手を握ってきた。


「え、なに?」


那津は僕と目が合うと手を顔の前で合わせた。


"ごめんね"


声にはなってなかったけど、口の動きでそう言ってるのが分かった。

那津は声が出せないのだと悟った。


「なんで謝るの?」


僕がそう聞くと那津は悲しそうに笑った。

それが僕にはとても辛かった。


「謝んなよ。羽水は・・・謝んなよ。さっき、シカトしてごめん。」


那津は驚いていた。


そんな那津を置いて僕は絢斗の元へ走る。


「絢斗〜!今日の給食なに?」

「いきなり元気だな。」


僕は那津と友達になろうと決めた。


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桜の絆 逢美 @balomuta1023

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