第4話 僕

登校2日目から運動会の練習が始まった。


「転校してきたばっかなのに、すぐ運動会だね。」


学年練習で校庭に向かう時、隣の席の絢斗けんとが声をかけてきた。

絢斗は眼鏡をかけていて、学年で1番頭がいいらしい。

僕とは正反対のタイプだ。


「学年練習って何するの?」

「ん〜多分、踊りとかじゃない・・・?」


絢斗とはこのお喋りをきっかけに、転校してから初めての友達となった。


校庭に5年生全員が集まって、先生が練習の工程を話し始めた。

僕は先生の話を聞かずに那津を探していた。でも那津は見当たらない。


「宙。なんか探してんの?」


背の順で整列している僕の前は絢斗だった。

絢斗は先生にバレないようにコソコソと聞く。


「あのさ、羽水那津って2年生じゃないの?」

「ああ・・・2年だけど、もうすぐ来るんじゃない?」

「遅刻?」


あんな大人しそうな那津が実は不良なのかと僕は驚いた。


「心の木はいつも後から来るんだよ。」


絢斗は当たり前のように言った。

また僕の知らない「心の木」ってやつだ。


「その心の木って何?」

「そっか、宙知らないのか。心の木はね・・・障害者のクラス。」


僕はなんのことだか分からなかった。

那津が障害者だと思えなかったからだ。


「・・・羽水が?」

「そう。」


僕たちがこそこそ話してる間に、先生の話は終わっていて、

みんながそれぞれの配置につこうと動き始めた。


その時、昇降口から2人の男の子と那津がこちらに歩いてきていた。


那津は僕と目が合うと軽く手を振った。

手を振り返せば良いのに、僕は色んなことが頭をぐるぐる駆け回って目をそらした。


「今、宙に手振ってなかった?」

「全然気づかなかったわ。てか俺らどこ?」


絢斗に嘘をついた。僕は最低だ。

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