第3話 発信
世の中SNS全盛で秘密にしておくよりも公開することばかりで、恥ずかしいことの境界線もあいまいになってきていると昔おばあちゃんが言っていた。私の祖母はいつも「はしたない」「下品だ」が口癖だったから、私はそういう部分を嫌でも癖としてもっている。黙っていることが実は美しさの秘密なのよと優しい笑顔でおばあちゃんは最高に美しいまま天に召されていったのはもう10年も前の事だ。
私は今「はしたないこと」や「下品なことを」している。体の線を存分に出して赤い口紅を塗って黒いタイツを履いて街を闊歩している。下目遣いをして、気を引きながら、会いたくないときは知らないふりをして目を合わせないように意地悪くこの街の女王様として闊歩している。
私に心酔する男の子が幾人かいる。彼らは私が派手だけれど弱くどこか抜けていて、危機管理や個人情報の管理も苦手だと勘違いしてくれている。世話を直接焼いていくれるわけではないけれど、私のSNSを存分に研究していることは話の端々からわかる。私は発信しまくっている。ツイッターの更新は数時間おきにしているし、なんでも状況報告のように投稿しているように見えるだろう。
私は大切なことを知っている。誰かに話したことは全員に伝わる。SNSで公開したことは全員に伝わることはもちろん、知人のひとりに話したことだって明日にはそのコミュニティの連絡網できちんとみんなが把握しているのだ。
本当に大切なことは日記かカウンセラーにしか話さない。カウンセラーには守秘義務があるしお金を払っているから安心して話せる。私はカウンセリングをもう10年も受けている。たわいもないことだから「そろそろいいんじゃない?」なんて言われるけれど、先生がいなくなったら私はバランスを崩して口外したら命を落とすような情報を漏らしてしまうことを良く知っているから、理由をつけてカウンセリングを受け続けている。
私は今日Twitterに爆弾を落とした。誰とつながり、誰と共通項が多いのかさらしたのだ。話さないことは切り札になり、スパイスになる。抜けているという印象はいい。うっかりしていたということが真実味を帯びるからだ。
私の爆弾はあの子を勝者にのし上げ、彼を引きずり下ろす。彼は私のナンバーワンだと思っていたし、あの子は虎視眈々とチャンスを狙っていたから、私が状況をひっくり返してあげたのだ。彼は善人で負けず嫌いだけれど、あの子は意地悪で負けず嫌いだから、私はどちらかというとあの子に似ているのかもしれない。発信に緘黙をのせる術を教えてくれたのは、娼婦として莫大な財産を築いた私の厳しくも優しく美しいおばあちゃんだった。
緘黙 アヤメ @YanaiMegumi
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