第2話 choke

声が出ないように私はチョーカーをしている。緘黙を意識づけるための、身体に教え込むための拘束具だ。

セックスをすると私は緘黙を起こす。見識も経験も浅い若い男の子たちは幻滅して二度と私を誘わないけれど、ある程度の苦しみを経験した男たちは私の膣の湿り気と締まりの繊細さに何度も何度も私を寵愛してくれる。若い男の子たちは幻想を抱いているし、言葉以外にもサインがあることをまだ知らないけれど、苦しみを経験した男たちは沈黙こそ金と愛を生み出すことを良く知っていた。

声に乗せて快楽を発散させることはもったいないことだ。緘黙をもってセックスをすると体中の神経が鋭敏になる。喘ぎをかわいいという男もまた青い。青さを向上心に変えられる才能がある男の子であれば、時間と手間をかけて育ててやってもいいと思うけれど、今はなんでも性急さが求められる社会だからか、そんな情緒的才能を秘めた男の子に出会ったことはまだない。

私の趣味は黒いハイヒールを履いて、タイトスカートをはいて下を向いて歩いて、そして目が合った男の子と話をすることだ。話をするのはどこでもよかった。ラブホテルでも公衆トイレでも、それこそ夜の海辺でも。きっかけはそんなものでいい。もっと極限まで突き詰めて言えば、目が合ってその視線をはずせなかったらそれはもう体の中に招き入れろという天啓なのだ。だけど、ただ話をするだけなのに時間と金を使う男だけは大嫌いだ。高級ホテルのスイートを取ったなどと言われたときはシャンパンのグラスごと男にたたきつけてやりたくなる。馬鹿にされたと私は思う。私が求めているのは男であって地位でも名誉でもないからだ。そんなものに重きを置いている安い女だと思われたことが私のプライドをずたずたにする。一瞬のときめきに理由なんて必要ないし、セックスしたからとてすべてを知れたわけでもなければ、すべてを与えたわけでもなくて、セックスしたあとにその人を手元で飼い殺したいかと思うか、それが本物の恋心だと思う。

私は常にチョーカーをしている。首を絞めて声を出すなと身体を躾けてやると、身体はますます欲求に素直になっていく。エネルギーは声に出して発散してしまうと新しい自分を形成してしまう。エネルギーの発散は生の始まりであり、死なのだ。私はこの身を死なせないために、エネルギーをためてためて熟すようにしてやる。そのうち、腐ってくるわけだが、ここまで来るともう取り繕うことも忘れ、ただただ運動神経と自律神経の信号だけを脳で感じられるようになる。感情という信号をすべて捨てるためにも私はエネルギーを内包して腐らせるようにしている。

チョーカーは私に生きることを強制させる、飛び立たないようにする、奴隷の印だ。首をしめていつか殺してくれる誰かを求めている。その誰かに出会えた時、私はこの黒いチョーカーをはずし嬉し涙を流しながら海に捨てるだろう。あの、ドブのような色をしたこの街の汚い海に還すのだ。

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