第11話 そして俺は毎年初恋する

「「ねえ」」


俺と斯波の声がだぶる。俺は話したい事がいっぱいあった


「「じゃ、高野君から」斯波から」


また、二人の声がだぶる


「「は、はは」」


二人共笑い出した。何が楽しいかって?


 解らないよ。ただ、可笑しいんだ。意味なんてない


「じゃ、高野君から話てよ」


「ありがとう。いっぱい知りたい事あって、俺」


俺は最大の疑問を早く聞きたかった


「今、何処に住んでるの?」


俺はこれを知りたかった。近くか、遠くか、それによって、次簡単に会えるかどうかがわかる


「京子先生の家よ」


「はーーーーーー」


俺は、思わず変な声を出した。よりにもよって京子姉。灯台下暗しじゃないか


「なんで、今まで連絡くれなかったの?


 俺、どれだけ心配したか」


「ごめんなさい。最初は私の意思だったんだけど、後半は京子先生の意思で」


「どゆ事?」


「最初はね。お母さんが倒れた後、私の身の振り方が決まっていなくてね


 それで、場合によってはそのままさよならした方がいいのかなと思って」


「さ、さよならって、なんでだよ?


 お母さんが倒れたって、そんなの関係ないじゃんか」


斯波が目を伏せた。睫毛が長くなってる。でも、可愛いい


「お母さんが倒れて、お父さんも何処かに行ってしまったの。それで、私達はこのまま生活を続けられない事がわかって、高校を中退したの。京子先生がしばらく泊まっていいと言ってくれたから、泊めてもらったけど、私、高野君に相応しくない女の子に思えて、だって、高校も出れない様な子なんだよ」


「バカーーーーーーー」


俺は大きな声を出してしまった。そんなの関係ない


「ひどいよ。斯波わ。俺は斯波が好きなんだ。そんなの関係ないよ」


「ごめん。でも、あの時は本当にそう思ったの」


「いいよ、帰って来てくれたんだから。でも、二度といなくならないでね」


「うん、うん、もちろんいなくならない」


斯波は泣き始めた。目から大きな涙が溢れる


「斯波、ごめん、責めるつもりじゃなかったんだ。ただ、俺、そんな事で揺るがないから」


「ありがとう。ありがとう」


泣き出した斯波を俺は抱きしめた。桜並木の前で結構人いたけど、俺たちは構わず抱きしめあった


「その後、どうしたの?」


斯波が泣き止み始めたので、俺は質問の続きをした


「最初は住み込みの仕事に着く筈だったの、でも、勤め始めるのが3月からで、少し時間があって、私、京子先生に一ヶ月程泊めてもらう様頼んだの。それまで私がいる場所がなかったの」


「京子姉は当然泊めると思うけど、なんで、京子姉は俺に斯波の事黙ってたんだ」


「シチュエーションですって」


「はあ」


俺は思い出した。昔、京子姉が涙を流せる名作だと言って俺に読ませた小説があった。それは最愛の妻がいなくなって、夫が探し回る話だった。最後に妻と再会して、愛が深まる様な話だった。京子姉の大好物作品だ。俺にはそれ程響かなかったから、忘れてたけど


「確かに劇的な再会だったけど、自分でも恥ずかしいわ」


「あれ、全部京子姉の脚本?」


「うん」


「京子姉、男の純情をなんだと思ってる?」


俺は思わず京子姉なじった。確かに劇的な再会だった。だけど、俺は劇的な再会よりもっと早く斯波と再会したかった


「京子先生は恩人だから、あまり責めないで、何より先生は私がお金持ちになれた大恩人だから」


「それなんだけど、どうして斯波が突然お金持ちになったんだ?


 突然でびっくりなんだけど、もしかして、実は何処かの国のお姫様だったとか?」


「お姫様は流石にないでしょ」


「じゃ、どういう事なの?」


「これ」


斯波はそういうとキーフォルダを俺の目の前に出した


「これ、これって斯波が作ったキーフォルダ?」


それは以前、俺が斯波を京子姉に紹介した時にプレゼントしてもらったキャラのキーフォルダだった


 でも、クオリティがあの時より断然違う


「これ、知らないの?」


「知らない」


「えええええええええ」


斯波はマジで驚いた様だ


俺は顛末を斯波から詳しく聞いた。斯波の作ったキャラのキーフォルダは京子姉の小説の編集者の目にたまたまとまった。斯波はその編集者に1個プレゼントしたそうだ。だが、そのキーフォルダが一人歩きを始めた。キーフォルダ事態ではなく、キャラの方だ。斯波のキャラは微妙というより完全アウトなやつだ。しかし、そのアウトっぷりが逆に面白く、更にたまたま玩具メーカーの営業の目にとまった。二人は恋人同志だったのだ


そして、斯波のキャラが玩具メーカーから売り出された。ほんの1ヶ月前の事らしい、しかし、そのキャラが爆発的に売れた。新しい世代のキャラとして大人気になったそうだ。最近ではアニメ化の話も出ているらしい。確かに斯波の独創的なキャラは破壊力抜群のアウトっぷりだった


「アニメの原案は京子先生なのよ」


「なんか、結果的に京子姉、一番得してない?」


「そんな事ないよ。京子先生がいなかったら、私......」


「そっか、そんな事が、すごい偶然だな」


俺はちょっと話をはぐらかした。どうも斯波の京子姉への信頼は凄いらしい


「うん、しばらく私はキャラデザイナーとして働く事になりそう」


「よかった」


「高野君、ありがとう。これからもよろしくね」


「うん、ずっと一緒だよ」


斯波が赤くなって、下を向く


「それってプロポーズ?」


俺は慌てた。そこまで考えてなかった。ただ、突然彼女に消えられた俺はずっと一緒にいて欲しい、そう、心から思った。しまった。こんな急なプロポーズあるか?


「ご、ごめん、ただ、ずっと一緒にいて欲しいんだ」


「そった、私2ヶ月も姿を消してたから、普通そう思ってくれるよね。でも嬉しい」


「うん、プロポーズはこんな突然じゃなくて、ちゃんとするよ」


斯波はまた赤くなった


桜の花びらが斯波の周りに舞い散っていた


☆☆☆


俺は桜の花が咲く頃いつも妻の事を思い出す。いや、妻はいつも俺のそばにいるのだが、あの桜の木の下の妻は美しかった。俺は桜が咲くといつも初恋のあの頃の妻を思いだす。あの頃は京子姉を怒ったりしたけど、今は感謝している。俺は毎年この季節にあの初恋の頃感じた妻を思い出す


俺は大学で孟勉強してそこそこいい会社に入った。全ては妻の為だ。もう二度と貧乏な思いなんてさせない。成績普通だった俺は大学では脇目も振らずに勉強した。おかげで成績はトップクラスになった。そして、出会った友人はその後の俺を支えてくれる貴重な友人達となった。高校の時の友人は心の支えだったが、彼らは実際に役にたつ人間ばかりだ。つまり極めて優秀。もちろん彼らに応える力を俺は持っている


全てはあの時、俺がいつになく、渋谷の街へ徘徊しだしたのが原因だ。俺は今も妻に感謝している。そして、桜の花が咲く頃、再び妻に初恋する。それを既に何年繰り返しているだろう。既に子供も2人いるが妻は今も美しい


彼女は今もキャラデザイナーだ。かつて程は売れていないが、あのアウトなキャラを創造できる人間はおらず、今も密かな人気があるそうだ


京子姉は文豪のおじさんと結婚した。直X賞作家というやつだ。年の差が少しあったが、直x賞なんて取れる頃にはおじさんになるのはよくある事らしい。京子姉が文豪のおじさんの心につけ込んだX関心を得たのは俺たちの話を文豪のおじさんに話した事が原因らしい


☆☆☆


おしまい

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