第10話 桜舞い散る中の斯波

卒業式を終えた。高校生活最大のイベントを終えて、皆、テンションが高い


 そんな中、俺だけテンション低く、ただ、機械的に卒業証書を受け取っていた


「高野、これからカラオケ行くけど、お前も行くか?」


友達の西野が声をかけてくれる。俺に気を使ったのだろう


「いや、そんな気持ちになれなくて」


「お前、まだ、斯波の事を......」


俺は黙った。図星だからだ


「気が向いたら来いよ。場所はメールしておく」


「ああ、ありがとう」


俺は力なく返事をした


 校庭にたくさんの同級生が集まる、皆、3年分をまとめて話したいのか、熱心に話しこんでいる


 声は明るく、そして笑い声が多かった


 俺は斯波を目で探した。いる筈が、ない......


 それでも俺は探してしまった。この卒業式で会えなかったら、二度と会えない。そんな気がした


 そして、それは事実だろう。俺と斯波の接点はこの学校で同じ同級生だったという事だけだ


 卒業してしまえば、再会できる可能性はほぼなくなる様な気がした


 そんな時だった。俺は心臓が止まりそうになった


『あれ、斯波じゃないか?』


何処からかそんな声が聞こえた様な気がした


 俺は左右を見渡した。おそらく不審者さながらだろう。でもそんな事に気を払う余裕は俺にはなかった


「高野、来い、斯波いたぞ」


西野が突然俺に声をかけた


「し、斯波が?」


俺は西野に連れられて学校の正門まで連れられてきた


 桜の花びらが舞う。風が一迅吹き、桜の花びらが舞い散る中に彼女はいた


「し、斯波」


俺は込み上がる嬉しい気持ちと心配性の虫が騒いだ


 斯波は見違える様に綺麗になっていた。艶やかな髪、お化粧、そして上等そうな清楚な服


 初めて見る斯波だった


『斯波、その服、どうして買えたの?


 いけない事に手を出してないよね?』


俺は心の中で、斯波が道を踏み外していない事を願った


「いたわね、高野君、お礼参りに来たわよ」


『お礼参り』


周りがガヤガヤする


『ちょっと、何、斯波、お礼参りって、どういう事?』


同級生の女の子の一人が斯波に聞く


「私、高野君に酷い事されたからお礼参りにきたの」


更にざわざわする


『何されたの、斯波?」


「足の裏の匂いを嗅がされたわよ」


『ええええええええええええええええ』


「斯波と高野何やってたの?」


「てか、お前らどういうプレイしてたんだ」


「えっ?


 斯波さんと高野君て付き合ってたの?」


みんな口々に言う。俺は訳が解らず、フリーズしていた


「高野君、覚悟してね!」


斯波はそう言うと突然、孟ダッシュをしてきた


 斯波がどんどん近づいてくる。斯波は笑顔だった。だから俺はわかった


 お礼参りの意味は解らないけど、俺に会いに来てくれたんだろう


「高野君、会いたかった!」


そう叫ぶと、斯波は俺の胸に飛び込んで来た


 斯波はかなりの勢いで俺の胸に飛び込んで来た。俺は必死で押し倒されな様踏ん張った


 目の前に斯波の顔がある。久しぶりの斯波の顔のアップは破壊力満点の可愛いさだった


「お礼参りってなんなんだよ?」


「だから、お礼に参ったのよ」


「なんだそれ?」


「色々ありがとう。お礼に来たの。私、お金持ちになったの」


「斯波、お前まさか......」


「違うわよ、高野君が考えている様な事じゃないわ。全うな商売よ」


「本当、私、そうじゃなきゃ高野君に会いに来れなかったわよ」


斯波はそう言うと愛おしそうに俺をギュッと抱きしめた。そして、顔を上げて目を閉じた


 たくさんの同級生の前だけど、俺は恥ずかしいと思っている余裕はなかった。この機会を逃してなるものか


 この機会を逃したら、斯波に会えなくなる。俺は斯波にキスをした


『わーーーーーーーーーーー』


『きゃーーーーーーーーーー』


同級生から歓声が上がる、卒業式というビックイベントに俺たちは花を添えた様だ


 しばらくすると


「あのな、青春中申し訳ないが、そろそろ、校門からみんな帰らなきゃならんのだ


 というか、お前らいつまでキスしてるんだ」


気がつくと俺たちはずいぶん長くキスしてたらしい。2ヶ月分だぞ、当然だろ?


 生徒指導の先生が声をかけてきた


「本来、不純異性交友で、職員室行き案件なんだけどな」


先生は苦笑した


「「す、すいません」」


俺と斯波の声がハモる


「高野、斯波とデートしてこいよ。俺たちのカラオケはいいから」


友達の西野が声をかけてきた


「西野、ありがとう」


「久しぶりだな。お前の笑顔」


友達に後押しされて俺と斯波は二人で歩いた。


正門から大通りに続く道は桜並木で有名なところだ。俺たちは桜並木の下り坂を二人で仲良く下っていった


気がついたら、斯波と手を繋いでいた


また、春の風が吹いた。斯波の髪が風で揺れる。そして、彼女の笑顔と周りには咲き乱れた桜が目に入った


俺は、斯波に魅入られた。斯波はやっぱり可愛い。心の底からそう思った

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