第44話

《当船はまもなく、目的地『リプラ』へと到着いたします》


 オープンベータ初日。もちろんボクは開始時間ピッタリにログイン――したかったけれど、サーバーが混雑しているとかなんとかで、なかなかログイン出来なかった。

 ログイン出来たのは開始から十五分ぐらい経ってからかな?

 で、このゲームはやっぱり飛行船から始まるのかぁ。


 一度しか乗ってない飛行船なのに、なんだか懐かしい気もする。


 結局ボクはキャラメイクもキャラクター名もクローズドのまま継続した。

 もう少し男っぽい顔に――とも思ったけど、なんだかありのままの自分のほうが『自分らしい』と思えたから。

 でも身長は155センチのままだけどね!


 一人突っ込みしていると、ふいに足元がグラついた。

 え? これ、グラついたってレベルじゃなくなってない?

 甲板上では他のプレイヤーらしき人達から悲鳴にも似た声が上がっている。

 ボク自身、必死に縁を掴んで飛ばされないよう踏ん張るのがやっとだ。


 なのに――


「天災か!? 事故か!? パニックホラーか!? 私の大好物だ!!」


 一人、変なのがいた。


《ご搭乗の皆様に緊急のご報告をいたします》


 ほたきた。クローズドベータの時と同じ展開――あれ? あの時って、緊急とか言ってたっけ?


「緊急だぞ! やっぱりパニック物だっ。DFO《ディーエフオー》はファンタジーから鞍替えしたのか!?」


 いや、もう五月蝿いからっ。何か大変な事が起きてるんだから、静かにしてくださいよセシルさん!


「え? セ、セシルさん?」


 ぎょっとなって声の方向に視線を向けると、ボクから少し離れた縁で楽しそうに天を仰いでいる……

 サラッサラな銀髪と長い耳が特徴な――イケメンエルフが立っていた。

 そのエルフはあろう事か、縁に足を掛けてその上に立ち上がろうとしているじゃないかっ。

 ちょ、まさかまた!?


《只今当船の真下に――》


 船が揺れる中、セシルさんはそんなの関係ねぇって感じで甲板の縁に立つ。

 待って、また飛び降りる気ですかっ。

 またGMさんにご迷惑掛ける気ですか!?


「ダメだーっ」

「おぉ、わんコロ君。久しいではないか」

「二日ぶり程度でしょうっ。それより、セシルさんまさか」


 大きく揺れる船の上で、なんとか彼の下――いや彼女の下にたどり着く。

 ボクは彼女が落ちないように、というか飛び降りないように必死にしがみ付いた。


《――には、ご注意ください。繰り返します。只今当船の真下に、飛行する――》

「ねぇ、何かあったんですよっ。今飛び降りたら拙いですって」

「今だからこそだろうっ! さぁ、行くぞマロン!」

「え? 今、ボクのなま――えええええぇぇぇぇぇぇぇっ」


 ぐわしっと首根っこを捕まれたかと思うと、体が宙に浮いていた。

 そして次の瞬間――


「アーイ、キャーン、フラアァァーァァイ!」

「いやああぁあぁぁぁっ」


 落下していた。






《当船の真下にて、飛行する大型モンスターの姿を確認しております。モンスターが生み出す気流の影響で、正常な航行が困難となっております。また、他の船が攻撃されたという情報もございますので、ご搭乗の皆様は十分にご注意ください》

「我々は冒険者だっ! 船を襲うモンスターなど、蹴散らそうではないか!」


 飛行船から落下する時に聞こえたアナウンスと、誰かの声。

 中には落ちていくボクらに気づいて声を上げる人もいた。いたけど、当然後を追って飛び降りてくる人なんていない。

 まぁそうだよね。いる訳無いよね。


「はははははははは。前回より高度が高いぞー」

「前回ね。二度目ですもんね」

「はははははははは。楽しいだろう?」

「楽しくありませんよ!」

「いや、あれを見れば楽しくなると思うぞ」


 セシルさんが「あれ」と言って下を指差す。

 見えるのは海でしょ。

 と思った瞬間だった。

 下から上に向って高速で流れていく雲の隙間から、真っ赤な岩の塊が見えたのは。


 いや、違う。

 ゴツゴツした肌が岩っぽく見えるだけで、これ、生き物だ!


「セセセセセシルさあぁぁん?」

「わははははははは。イベントモンスターだぞぉー。そぅりゃ!」


 何故か背中からウクレレを取り出すセシルさん。

 あ、竪琴やめたんですね。


「ってそんな場合じゃないしいっ」


 ウクレレを振り上げ、そして振り下ろす。

 そのタイミングは、彼女曰くイベントモンスターの上に着地する瞬間。

 同時にボクは思いっきり体を撃ちつけ、情けない着地を披露することになる。しかも視界は赤く点滅し、瀕死状態だと知らせた。


《グルガオオォォォーン》


 まさか痛かったの?

 

 吠えたイベントモンスターの姿がハッキリを見えた。


 これ


 ドラゴンっていう生き物じゃないですか?


「うははははははは。ほらわんコロ君。殴れ殴れ。ここで経験値を稼ぐのだ!」

「いやでもこれ、ドラゴンですよ!?」

「だからなんだ?」


 ……この人に常識は通用しないんだろうなぁ。

 だってドラゴンっていったら、ラスボスとかその腹心とか、そこまでいかないものの高レベルってのが普通でしょ?

 まぁこの人がそもそも普通じゃないしなぁ。仕方ないか。

 はぁ……


「じゃあ、経験値になれーっ」

「なれーっ」


 ボクは拳……ちゃんとナックルを初期選択して――殴り、セシルさんは右手に棍棒、左手にウクレレを持って殴りだす。

 あ、またLUK極振りしてるな。彼女の攻撃はクリティカルがよく出てる。


 ガオーンガオーンと吠えるドラゴンだけど、反撃は一切してこない。

 どうしてかな?


「きっと自身の上から攻撃されるという事を想定されてなかったのだろうな。ふふふ。手抜きプログラムが仇となったなニヤリ」

「……ずるい」


 ずるい事をしているのはボクたちです。本当にごめんなさい。

 けれど、ずるい事をしていた罰が当たったのかな。


《ゴオオオォォォッ》


 っとドラゴンが吠えると、急上昇をはじめた。

 そして落ちるボクとセシルさん。

 ドラゴンはそのまま飛行船に向って攻撃しはじめた。


 どうやら飛行船内とドラゴンとで戦闘が始まったみたいだな。

 それを見上げながら、ボクは落下していった。






「海ですね」

「んむ。前回も海だったからな」

「二度目ですもんね」

「んむ。前回は海上を泳ぐタイプのモンスターはいなかったが、今回はどうかな?」

「止めて下さいよっ。怖い事言わないでくださいっ」


 ばしゃばしゃと抗議するが、当のセシルさんはケラケラと笑っているだけ。

 うぅぅ、誰か助けてぇ〜。


「またあなたですか! しかも今回は君もですか!!


 背泳ぎ状態の頭上から声が。泳ぎ方を変えて声のする方を見てみると、そこには真っ白い鎧に身を包み、頭には『GM』と書かれた看板を刺した男の人が立っていた。


 ボクのオープンベータ……お先真っ暗な予感しかしないのに、わくわくするのは何故だろうか。

 

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VR初心者なボクの平凡且つ全力で楽しむプレイ日記。 夢・風魔 @yume-

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