快晴
ただのハッタリだ。
そう思い再度放つエッジボール、しかし律の返した球は束の予想を遥かに超える技術で、彼の予想を裏切った。
台の角へと当たった球は不安定な軌道を描き、床へと落下を始めた……その瞬間、律のラケットによって全てが塗り替えられる。
返された球はネット脇から束の台へと滑りこみ、バウンドひとつせずに転がり落ちた。
「……ゼロバウンド」
跳ねない球は打ち返しようがない。
その後も束はあまりのショックに踊らされ、何度もエッジを狙うがその都度ゼロバウンドで返されてしまった。
そのまま繰り返すことでとうとう首の皮一枚となってしまった1-9。デジャヴとも言えるその点数に、誰もが最早救いは無いと諦めていた。
……たった一人、師匠を除いては。
こんな時の為に磨いていたもう一つの奥義、それを実用すべく相手に点を取らせていたのだ。
「あの律とかいう小僧、ここまでエッジ対策に振った動きをしている。踏み続けたアクセルをすぐには抜けんだろうよ」
そうして再度得られたサーブ権。
束の放った弾はいとも簡単に返されてしまったが、更にうち返した一球は……いとも簡単に律から1点を奪い去った。
「なっ!?」
球は直線を描き、吸い込まれるようにネット上部へと当たり、相手コートへと転がり込む。
そう、ほぼ100%ネットインが出来るようになっていたのだ。
流石の律もこれには心が折れ、手も足も出ないまま試合は終了。束が優勝を勝ち取った。
皆が湧く中、束はラケットへと語りかける。
「卓斗、お前の見たかった理想の空、俺が見せてやるよ」
卓球界へと現れた彼の伝説は、ここから始まるのだった。
セルロイド 瀬野しぐれ @sigure_sigusig
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