【ライセンス!】第60話:そして、始まる
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こちら、実はずっとそのままにしていていつか出そうと思っていた一幕なのですが、読み直してたら、出すところ一箇所しかなかったんじゃんと思って今更ながらボツシナリオとしてここで出しちゃおっかなって。
第二章の終わり。
ついに正体を現したとある女性。
本作上では、一人と機械が会話しているだけですが、実はもう一人そこにいましたとさって話です。
実はこっちのほうが好きだったりします。
ここの話を作っている時点で、御主人様を出しまくると駄目かなって思ったのでボツにしましたが……
う~ん。
第一部まで書き終わった後に思うと、これでもよかったんじゃないかなって。
読まれている方々がもしこちらに辿り着いたとき。どう思いますかね?
なお、本編として出しているのはこちらのお話。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890238672/episodes/1177354054893885713
前半は変わっていませんが、後半がごっそり変わっています。
……………………
最愛の人が自分の胸に顔を埋めている。
そんな感傷は後にして。
とにかく今は逃げないと。
さらっと気持ちを切り替え、冬はすぐにリビングへと向かい荷造りをしだした。
「え。え? 冬?」
まだ余韻に浸っていたかったスズとしては、あまりの変わり様に、きょとんと、名残惜しそうに自分の最愛の人を呼ぶ。
「ここから逃げますよ、スズ」
「なんで?」
「スズが枢機卿を見たからです」
裏世界の許可証協会のもっとも重要である枢機卿を見た一般人がそのまま野放しにすることは、あの枢機卿が行うはずがない。
あれから一時間は経っている。
スズは標的とされ、すでに黒帳簿に載せられていてもおかしくない。
こう言うときに、動きの早い枢機卿を恨めしく思う。
事情を話すと、スズは真っ青になって焦りだす。
逃避行までの時間はそれ程多くはない。
「どこか時間が作れる場所を見つけたら、すぐに枢機卿に話します。それまで逃げますよ」
救いは、スズが一般人ということだ。
最初のうちは、上位殺人許可証所持者が襲ってくることはないはず、と、冬は考えていた。
それこそ、シグマや鎖姫がくるなんてことはないはず。
フラグをたてちゃダメだと、一瞬頭に浮かんだ二人を消し去って支度を整える。
そんな時間は、勿論ない。
それが、枢機卿だから。
枢機卿から、逃げられるわけがないのだ。
「おらぁ! でてこいやぁ!」
がんがんと玄関を叩く音が聞こえてきた。
「え……なに?」
「……まさか、もうすでに……?」
スズがその怒鳴り声に近い大きな声に、びくっと体を震わして抱きついてきた。
冬の脳裏に浮かぶは、枢機卿を見てしまったスズの追っ手だ。
すでに手配され、黒帳簿ブラックリストに載せられたスズを殺しに来た殺人許可証所持者。
枢機卿の手の早さや、その手配をすぐに実行しようとする殺人許可証所持者が――
「いやいや、その言い方だと、確実に殺し合いになるからね?」
「なんやねん! わいはただ冬の彼女がどんな子かみたいだけやねん!」
――知り合い。
なんで二人が追っ手。
そうまでして枢機卿はスズを殺したいのかと、枢機卿に怒りが沸いた。
二人が依頼を受けたのだとしたら、冬に勝てる自信がない。
そんながんがんと叩かれる扉はすぐに音を止め。
「冬君? 大丈夫だよ。枢機卿からは何も出てないから安心して」
「なにびびっとんねん。とっととあけぇや」
開けて欲しい。
そう言う、扉の前にいるはずの仲間の二人に、
「そろそろ破るぞー」
「いや、かなり警戒されるからね?」
……警戒心しか、出てこない。
『いいから、開けなさい』
すぅっと、リビングにいつの間にか。
また冬が付けっぱなしにしていた許可証所持者専用サイトから声が聞こえだす。
「枢機卿……」
この状況を起こした元凶の声がするのも、警戒心しか植えつけなかった。
『安心しなさい。水無月スズ様には何もペナルティはありません』
警戒心を植え付けてきた元凶に言われても、説得力はなく。
『ラムダ。何か勘違いしているようですが、私は――』
かつんっと。
玄関ドアのドアノブが綺麗に切り落とされ。
「なんやねん。最初っから開いとるやんけ」
その先から、にたぁっと下衆な笑みを浮かべる松の顔の一部が見え。
「だから……そばかす君。そのやり方は相手に恐怖しか植え付けないって」
「そばかす言うなやっ!」
とんっと、ドアノブがなくなり押すしかなくなったドアが押され。
そう言えば、スズは玄関の鍵を閉めてないですね。と、今の状況の中、今更ながらにどうでもいいことが脳裏を掠める。
「……冬の、お友達?」
「お友達というか……」
「殺人許可証所持者で、同期で仲間だよ。可愛いお嬢さん」
なんて、いつもの笑顔を浮かべながらぴこぴこと嬉しそうに頭頂の筆を揺らす瑠璃が。
「とにかく。何もないから安心して」
「そやで。見に来ただけや。羨ましくてはっ倒したいわ」
『どこへ逃げようとしているのか分かりませんが、話を聞きなさい』
なんだか、家が騒がしくなりそう。
敵ではなさそうな二人に安堵しながら。
その玄関の修理は誰がやるのかと恨めしく思いつつ、二人を家へと上げた。
……枢機卿からは逃げられない。
別の意味でそう思った。
「あのね。冬。枢機卿さんと話した時に、私は何も悪くないって言われてたから。冬が急にあんなこと言うから焦っちゃった」
松と瑠璃にキッチンで入れたコーヒーを出しながらスズにそんなことを言われ、冬は自分が早合点しすぎていたことに気づいた。
「かっ。なんや。可愛い子ちゃん守ろうと必死やな」
「当たり前じゃないですか」
「そばかす君は配慮がないね」
「そばかす言うなや、筆ペン」
きっと、張りつめていたからだろう。
二人がにこやかに牽制する会話も冬には妙に懐かしく感じる。
『スズ様。これからはすーちゃんとでもお呼びください』
「え? すーちゃん?……どこに
『すうききょう、に入っておりますよ』
「だからすー――……そのネーミングセンス、誰……」
そんな勘違いの元凶の、スズへの優しい声に、
「僕も――」
『あなたが言ったら
……早合点、してましたかね? ほんとに。
相変わらず、冬には舌打ち混じりで返す枢機卿に、松も瑠璃も唖然としている。
『スズ様には、将来有望とされた許可証所持者に害意がないか確認させて頂いただけで、処罰等与えるわけがありません』
忌々しいと、冬には刺々しいことに、誰もが「なんで?」と疑問符が浮かぶ。
「なぜ、そのようなことを?」
『依頼があったからですよ。……依頼主は明かせませんが』
「私、そんな悪い人に見えるかな……」
『いえいえ。可愛らしいですよ。シグマの馬鹿がこんな依頼をしてこなければまどろっこしいことなどしませんでした』
依頼主、普通に言ってるし。
そんな四人の心の声は彼方へと。
『とにかく。あなたは仮にも私を見てしまったこともあり、保護下に置かれますので、十二分にラムダに守られてください』
忌々しいことに。
なぜ、忌々しいと一言付け加えられるのか、さっぱり分からない冬だった。
でも。
これで、スズは何事もなく、平和に暮らしていけると思うと、嬉しかった。
「ちゃんと、死ぬまで護ってね」
「死なせませんよ、スズ……」
隣に座って冬の膝に置いた手に手を添えながら、嬉しそうに笑顔を向けるスズに言葉を返し。
「かっ。わいも彼女欲しいわぁ」
「ファミレスに女性いっぱいいるよ?」
「ありゃ、大体冬のやんけ」
ソファーに座って祝福してくれる仲間に感謝し、
「浮気、許さない」
カ◯オ君みたいに耳を引っ張られながら、これからのことを考える。
『やることが増えましたね』
「あ。冬君も目的があったんだね」
瑠璃に「なかったらこんな物騒なものとりませんよ」と苦笑いする。
「なあ、冬。あんさん、なんのために許可証とったんや?」
「聞いてみたいね。協力できることなら協力するよ」
「冬、手伝ってもらったら?」
『……』
「それはですね――」
――ここから。
仲間達と、最愛の人と。
時々辛辣な人工知能とともに。
裏世界へと姉を探すために足を踏み入れた少年の、裏世界全てを巻き込んだ世界改変の物語が、幕を開ける。
第二章『D級許可証所持者『ラムダ』』
完
⇒ぴっ
廃墟の中で、起動音が静かに鳴った。
『――以上が、報告です』
暗闇の中。
機械音声が流していた映像を、じっと見ていた女性がいる。
映像を見終わった後、女性はほぅっとため息をついた。
『二人を見ていると、愛らしかったですよ』
「初々しさはありましたね、永遠名冬のほうは」
「でしょ~? 冬なんて可愛すぎて悶えちゃうでしょ? 姫ちゃん」
「いえ? 御主人様のほうが何千倍も素晴らしく愛らしく。時々見せる可愛さも相まって今すぐにでも抱きしめて噛みつきたいくらいに愛しいですが? ぁあっ。御主人様のことを想うだけで今すぐにでも――ああ。今日は二人の日でした……ぁぁ、御主人様……姫は、姫は――」
『姫』と呼ばれた女性が、暗闇の中に潜む女性の背後に姿勢正しく佇みながら、その質問に返し、一人勝手に話がずれていく『御主人様』への愛情溢れてくねくねするそのメイド服姿の姫に、女性と機械音声は呆れて苦笑いした。
「さ。これから忙しくなるかなぁ」
「なっても私は助けませんよ」
間髪入れずに、妄想から戻ってきた姫が返す。
『とか言いつつ助けに入るんですよね』
「まさか。学園内での監視の依頼が終わって離れられるのですよ? これで御主人様との時間が増えると思うと、今から――」
「
『かしこまりました』
「……やめなさい」
「そもそもー。姫ちゃんも、しぐまも、私に内緒にしてたのがいけないんだよー?」
ぶぅっと頬を膨らませるその女性の白髪は、暗闇の中でもうっすらと光を放ってた。そんな白髪を、今まで自分だけ内緒にされていたという事実にぐしゃぐしゃとかき乱す様は、少し子供っぽさを感じさせた。
「内緒ではありません。御主人様に会える嬉しさに忘れていただけです」
「女の友情より男ね」
「当たり前です」
はぁっと白髪の女性からため息がでる。
落ち着いたのか、ぐしゃぐしゃにした白髪を、手櫛で直して居住まいを改める。
「まー、でも。スズちゃんと仲良くしてるようで何よりよ」
「先越されるかもしれませんよ?」
「う……私の婚期はまだよ」
「私はすぐですね」
「そなのっ!?」
とんっと、地に足をつけるような音がして、女性が液晶画面に近づいていく。
「御主人様と上手く言ってるんだねー。……あれ? 二人、奥さんいるって言ってなかった?」
「私は愛人枠ですから。むしろ私はもう結婚しているようなものですが」
「なにそれ……ハーレム?」
『とはいえ、です』
枢機卿が二人のどうでもいい争いに、今はそんな話をしている時ではないと終止符を打った。
『疑似人工生命体、個体名称『鈴』。彼女とラムダがこれからどうしていくのか。彼がスズを護りきれると思いますか?』
「護りきるじゃなくて。護るのよー。私も外から手伝っちゃうしね」
『ならいいのですが……』
液晶画面に映る冬の姿に、嬉しそうに、慈しむように微笑みを見せると、
「上がってきなさい。そしたら優しくなでなでしてあげよー」
画面上の冬に伝えると、枢機卿の画面をスライドさせて画面を元の半透明の緑色に変える。
「今から行ってしてくればいいのに」
「えー。行ったらしぐまがうるさそー」
『ほんと、面倒な方ですよ』
「本当ですね」
『あなたもですが』
そんな言い争いをしながら、枢機卿が自主的にぷつっと音を立ててその場から消えると、二人の女性も廃墟から外へと向かって歩き出す。
「またね」
そして。
暗闇だけが残った。
……………………
どうですかね?
姫があれだけ主人公(笑)になってたら、こっちのほうがよかったかもですね
……………………
そんな感謝を込めて、部分抜粋 ともはっと @tomohut
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