人狼と魔女
逆塔ボマー
あるいは人狼ゲーム不成立
夜中に家の扉がノックされて、さては村で誰かが急な病気にでもなったかなと思えば戸口にはびっくりするような美少女が立っていて、こんばんわ私は昼間に罠にかかったところを助けてもらった狼です、何か恩返しを、とかぬかしおる。馬鹿野郎それって人狼そのまんまじゃねぇか人類の敵じゃねぇかてめぇどういう魂胆だと思いつつもとりあえず小屋に上げて茶でも入れてやって話を聞いてみる。そもそもなんで罠になんぞかかっていたんだと尋ねると、ヒトに化けられる知恵ある狼たちも昨今は鉄砲の普及から生存が難しくなっていて、猟師たちの襲撃を受けて散り散りに逃げたところで運悪く森の中の罠にかかったのだという。あーそういえば村の連中が言ってたなー近くの峰で大掛かりな狼退治やったって。ほとんど綺麗さっぱり退治したって言ってたぞ。そう教えてやると自称狼な美少女は泣きそうな顔になる。まあとりあえず行く当てもないだろうし一晩くらいはここで休んでいきな、こちとら哀しそうな声で鳴いてる狼にほだされて罠から解放しちまうような変人だ、トチ狂ってあたしを食おうとしなければそれでいい。
そういえば貴女はどういう人間なんですかと問われて、魔女とだけ答える。より正確に言えば魔女のような仕事を期待されている村の鼻つまみ者だ。両親が疫病で亡くなってまだ独り立ちできる歳でなかったあたしを拾ってくれたのが先代のこの小屋の主で、そのババアも魔女と呼ばれてはいたが要は野草とキノコに詳しいだけの変わり者だった。多少のハッタリと話術と、たった一冊の中途半端な占星術の本だけを頼りに、野生のハーブと多彩な毒もつキノコを使ってさも不思議な力があるかのように見せかけていた詐欺師だった。村の連中も胡散臭いと思いつつもそれなりに上手く利用していたし、今も利用してくれている。風邪をひいたらちょっとひんやりするハーブを求めにくるし、怪我をしたら痛みを紛らわせるキノコの粉が要るし、決断に困ったらサイコロを振って決めるかさもなければ森の魔女の占星術を頼る。
ところで人狼とやら、お前さんその服はどうしたのかね。ふと気になって尋ねると、ヒトの家を訪ねるなら裸ではまずかろうと狼なりに知恵を絞って調達したのだという。調達。おい待てや。ぐいと引っ張って襟を確認すると村のちょっと小生意気であたしと仲の悪い小娘の名前が刺繍されている。うっかり森で狼にでも襲われたら顔とか食われちまうことも珍しくないのでみんな服に名前を入れているのだ、ってか早速役に立ってるし早速森で狼に食われてんじゃねぇか。お腹いっぱいなので心配しなくても恩人の貴女は食べませんよってやかましいわ。
あのなーこうなると完全に山狩りになるしお前を見つけてつるし上げるまで村人たちはとまんねーぞ。それは困りましたね。他人事かよ。ついでにお前さんの着ているその服が動かぬ証拠になっちまうし、人狼をかばったってことで魔女のあたしも一緒に縛り首だ。それは困りましたね。他人事かよ。
じゃあ先手必勝で村人を皆殺しにでもしましょうか、とか言われて、待て待て待て。それは流石に…………んー、それもアリか。恩より恨みの方がでけェわ確かに。
狩人がいるのがここで、そうでなくても銃使える奴がこの家とこの家。
いやあ手際がいい、むしろお腹いっぱいだったので殺すことだけに専念できましたっておまえ腹減ってたらどうなってたの? まあ仕上げに火ぃつけて、ついでに多少の金品も抜き取って、森の奥の小屋にも火を放って、さあどこに行くよ。どこでもいいわな。お前と一緒ならさ。
人狼と魔女 逆塔ボマー @bomber_bookworm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます