第8話 後輩

明日香が泊まりに来た日から、2週間が経った。


あの日以来、俺たちは連絡を取っていなかった。


母さんのもとにはお礼の電話が来ていたらしい。


何故俺が知っているのかというと、明日香ちゃんは礼儀正しいわねぇ、いい子ね、と母さんが褒めちぎっていたからだ。


しかし、俺にはLINEの1つもない。


俺が気に触ることでも言ったかなと気に掛かって、スタンプを送ったけれど未だに既読は付いていなかった。


廊下ですれ違うたびに、ちょっと手を振るくらいはしたが、元気そうではあった。


気になるな。


まあ、あいつも何かと忙しいから、放っておいた方がいいのかも知れない。


気に掛けながらも、もう2週間は過ぎてしまっていた。


今日の時間割は、英語、数学、体育、体育、社会。


朝っぱらから英語と数学が連続していやがる。


授業が終わった時点で、練習が始まる前から既に疲れていた。


部活が終わって下校しているときには、早く帰って寝てぇとしか思っていなかった。


家の近くで、明日香の弟の明弘と出くわした。


明弘は長めの靴下を履いていた。


同じく練習帰りのようだった。


声を掛けようとしたが、明弘の方から話掛けてくれた。


「あっ、彰先輩!久しぶりっす!」


明弘は満面の笑みで俺を見た。


相変わらず、懐いてくれているんだよな。


「先輩がチーム卒業して、寂しいっすよ。また彰さんと一緒に、サッカーやりたいっす」


と明弘。


嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。


そう、俺は小学生のときから中学を卒業するまでは地元のチームに所属していた。


明弘は隣同士であると共に、俺の後輩でもあった。


俺は、


「ありがとな、明弘。オフの日にでもまたやろうぜ」


と返した。


明弘は、


「あざます!あの、俺、OBいつでも大歓迎なんで!先輩絶対来て下さい!」


と言って頭を下げた。


「いやいや、お前が良くても他のメンバーにはうざいかもしんねーじゃん?粕谷とか、他のやつらと予定が合いそうなとき行くわ」


と俺は言っておいた。


明弘は俺らの代と仲がいい。


いいやつだから、本心で来てほしいと思っているのだろうが、OBを良く思わない後輩の気持ちもわかるから、受け流しておいた。


「そういや先輩」


と明弘は言った。


「ん?どうした?トレーニングの話か?」


と俺は聞いた。明弘からの相談ならば大歓迎だった。


「あのぅ…姉ちゃんが先輩の部屋に泊まったって…まじすか?」


明弘は目を輝かせながら言った。


あいつ、まさか話したのか?


と俺は驚いた。


いやいや、あいつは誤解を招くようなことは言わないだろう。


母さんがなんの気なしに喋ってしまったに違いない。


「姉貴の部屋が物で埋まってたから仕方なく、な。悪かったな、面白い話は何もねえよ」


と俺は答えた。


明弘は首を傾げた。


「前から気になってたんすけど…先輩って、姉ちゃんと付き合ってるんすか?」


「は?!そんな訳ねえだろ。何でだ?」


寝耳に水だった。


まあ、幼なじみだし、揶揄されるのには慣れていたのだが、まさか明弘にまで言われるとは驚いた。


「誰に聞いたんだ?」


と俺は明弘に聞いた。


「いや、誰にも。でも、姉ちゃん、先輩が外走ってるときいっつも見てるし。最近話聞かないから、何かあったのかと思ったんす」


あいつが?


今まで気付きもしなかった。


ランニングなら前から続けているしな。 


まあ、気にしなくていいやと俺は思った。


「気にしなくていいよ。俺とあいつは、相変わらずだからさ」


と俺は言った。


明弘は、


「わかりました。余計なこと言ってすんません」


と言って、頭を下げた。


その後は、軽くサッカーの話をしてから、家まで辿り着いた。


じゃあな、と言って俺は明弘に手を振った。


明弘が、


「あっ、待って下さい先輩」


と、俺を引き留めた。


明弘は、


「俺、心配なんす。姉ちゃん、クソ真面目だから、騙されやすいっていうか」


一呼吸置いて、明弘は続けた。


「彰先輩とくっついたらいいのに。俺、地味に期待してるんで」


明弘はそう言って、ぺこりと頭を下げた。


「くっつかね…」


明弘は、俺が言い返し切る前に、家に入ってしまった。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

よく知っているはずの君のことを、もっと知りたいんだ 鹿島輪 @marurinrin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ