第374話 魔軍交戦71 珍妙な援軍
「全軍突撃!」
「突撃はいいけど
「待てや!魔法使いの
「制空権取ってからにしろや!何のために翅ついてる種族いると思ってんだ!」
「ははは!俺よりも足が遅いのが悪い!我が臣民たちよ!」
「「「お前のノリに
戦地とは思えない軽いノリで虫人族たちが魔物達を蹴散らしている。上空では翅付きの虫人が吸血鬼たちへ突撃している。先頭を走るハンミョウ族の国王に、他のハンミョウ族やムカデ族が必死で追い縋っている。速すぎるとは思うが、どうもあの国王のみが得意な運動能力を有しているらしい。他のハンミョウ族は彼がゴブリンを討ち取る間に何とか横へ追いついている。
「というかラウは!? あいつどこ!? あいつのキックでめっちゃ蹴散らせるじゃん!どこ!?」
「あいつはバッタ族のくせに足が遅い。知ってるはずだが」
「置いていったのお前だろうが!」
クワガタ族のリュカヌ・セルヴォランとカマキリ族のファング・ホイシュレッケが突っ込む。
「がはははは!よくわからんが味方が増えたな!」
「少なくとも都へ生きて帰れそうにゃん」
ゴンザとシーヤが呟く。
「我々も参加するとしようか」
ウォバルが言い放った瞬間、3人が駆け始める。
「エクセレイの武人とお見受けする!戦況はいかに!?」
「うわ!カブトムシにゃん!」
「マジじゃねぇか!カッケェ!それ見せてくれよ!今度それモチーフにした鎧作りてぇ!」
「……かっこいいな」
三者の反応に、カブト族の男が少し怯む。
「失礼いたした!名乗りが先であったな!私の名はジゥーク・ケーファー。コーマイの軍部を束ねている!そこな武人、戦況を教えていただきたい」
「私はウォバルだ」
「ゴンザだ!」
「シーヤ・ガートにゃん」
予断を許さない状況なので、自己紹介はそこそこにウォバルが状況を説明する。
それを聞いたジゥークは角の付け根を触りつつ考え事をする。
「コーマイにもまともっぽいやつがいるんだな」
「待つにゃん。虫の国の人々の性格を知るにはサンプリングが少なすぎるにゃん」
最初にあのハンミョウ族の王なのだ。その次はいかにも忠誠心が高そうな軍人。キャラの温度差で風を引きそうである。
「その、アーキアとやらは足止めが可能かもしれぬ」
「本当か!」
ゴンザが髭を振り動かし反応する。
「援軍は我々だけではない。巨人の国エルドランの軍も到着予定だ」
「それは」
「心強いにゃん」
返事の内容の割には、ウォバルとシーヤの表情は曇っている。
「その顔、お気づきのようだ。エルドランの軍は再建中だ。健康な武人は生き残りが少ない。アーキアとかいう怪物は、足止めがやっとだろう。あれに一太刀入れることができる者はエルドラン王しかいないが」
「彼らとしては王を他所の国で死なすわけにはいかない、か」
「そういうことだ。その上、彼らは大きいが足が速いわけではない。コーマイの速い種族が間に合いはしたが、本隊が追いつくのは時間を要する」
「どのくらいだ?」
「数時間は見た方がいい」
「結局俺らが頑張るしかないのかよ!」
ゴブリンの首を弾き飛ばしながらゴンザがうなる。
エルドランの巨人達が現れるまでは、そこにいる人材で何とかするしかない。
「まぁ、いいとしようじゃないか。元々この戦いはエクセレイ単独でやる予定だったんだ。これ以上を望むなんて虫が良すぎる」
虫だけに。
という最低のジョークが3人の頭によぎったが、ジゥークが真面目そうな人間、否、虫人族なので口を紡ぐ。
「虫だけに」
「言うなや!てうお!?」
反射的に突っ込んだゴンザが驚く。
「フィンサー!?」
そこには、学園を守っているはずのフィンサーがいたのである。
「うちもおるけんね!」
フィンサーの背後から、小さい人影が飛び出す。
エクセレイ魔法学園の園長、シュレ・ハノハノだ。
「学園はどうするんですか」
「あれを止めないと子どもたちは全滅にゃん」
地響きが鳴った。
シュレの背後で都の防壁が丸ごと吹っ飛んだ。
アーキアが破壊したのである。
「正面からぶつかるのは駄目だ!速度を落とすことだけ考えろ!」
アーキアに並走するムカデ族が叫ぶ。彼らは無数にある後ろ足で疾駆しつつ、器用に前足で弓矢や槍、石を投擲してアーキアを攻撃する。だが、アーキアの表皮から伸びでた触手に蒸発させられて霧散してしまう。魔力が込められていない攻撃に至っては、表皮に触れるだけで蒸発してしまう。
「まるで、あいつだな」
「ウォバルもそう思うか? ありゃあ、初めて会った時の犬っころみたいだな」
「違うことといえば瑠璃君は張りぼてだけど、あれは正真正銘の魔力の塊だってことだね」
「一体何を材料にしたらあんなん出来るんだ」
ゴンザの言う「材料」というものが、おおよそ想像できてしまうので、ベテラン冒険者一行は顔をしかめる。シュレに至っては、悪鬼羅刹のような顔をしていた。周囲の虫人族が彼女から距離をとる。
「どうどうどう」
慣れたフィンサーがシュレの肩をもむ。
「足止めっつたってなぁ。あんなんどうやって止めるよ」
「総員!土魔法の使い手を中心に
ジゥークの号令に、虫人族が動き出す。土魔法使いが魔力を練りはじめ、それを他の兵士が円形に取り囲む。
砂の多いコーマイでは、土魔法の使い手の練度が高い。また、自前の鎧を持つ彼らにとって密集陣形は得意な陣形である。
盾役がシールドバッシュで魔物を弾き飛ばし、地面に倒れた瞬間、足の速いムカデ族が取り囲み袋叩きにしていく。
土魔法が練りあがった。
アーキアの目の前に大量の土壁や岩壁が顕現する。
アーキアに迂回という発想はない。全体重で突っ込み、破壊していく。
「効いてねぇ」
「でも、足止めにはなってる」
ウォバルが感心する。
アーキアが傷ついた様子はないが、移動は確実に遅くなっている。
「我々にできるのは、あれの援護くらいですね」
フィンサーがスーツの亜空間内ポケットから投げ斧を取り出し、虫人族へ襲い掛かるレッドキャップゴブリンへ投げつける。
「走るばい。あれは足も速い」
シュレの言葉に従い、その場の全員がアーキアと並走し始めた。
「走れ走れ走れ!」
シュレ達の少し先を、アルケリオやイリス、ロプスタンら竜人族らが走っていた。すぐ横をルークら勇者パーティが走る。
「ルークさん!人里の少ない方角はどちらですか!?」
アルケリオが端正な顔を引きつらせて叫ぶ。
「魔王の城が来た方角は無人だ!そちらへ行こう!」
「魔物の総本山じゃないの!」
「あれに飲み込まれるよりマシだろ!」
イリスの叫び声にロプスタンも怒鳴り返す。
前方からゴブリンやバトルウルフが突貫してくる。竜人族たちが爪や槍で弾き返すが、何人かは巻き込まれて横転していく。必死の形相で立ち上がり、すがる魔物を引きずりながらも走り続ける。
倒れた魔物が後ろで蒸発して吸収されていくのが見える。
止まることは死を意味する。
目の前で襲い掛かる凶暴な魔物の恐怖を、後ろから迫りくる肉塊の恐怖が上回る。
ロプスタンは頬をゴブリンに切り付けられたが、歯牙にもかけない。
それよりも意識が後ろのアーキアに吸い込まれる。
共に逃げる面々の表情を、アルケリオはしばらく、ぼんやりと眺める。
「僕「言わせねぇ」ないわよ!」」
アルケリオの言動をイリスとロプスタンが封殺する。
「あんたどうせ自分が囮になるなんて言うんでしょ!?」
「そうはさせねぇよ馬鹿!」
「そうよ馬鹿!自己犠牲なんて大嫌い!クレアもフィルも嫌い!あんたまでそんなことしないでよね!」
「う、うん」
横合いに風が吹いた。
アルケリオの隣にルークがついたのだ。アーキアの狙いがアルだと報告してきたのは彼である。最初は突然の勇者の来訪に全員唖然としていたが、彼の説明を聞くやいなや、逃走劇に発展したのである。
ルークの目線が上にそれる。
目線の先をアルケリオが追う。
そこには、吸血鬼と共に逃走する魔王エイダン・ワイアットがいた。
エルフ転生 円仁(えんじん) @the05102kai
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