キャラクターの頭の良さについて

脳幹 まこと

創作物における頭の良し悪し


 とても気になるトピックがある。

「書いている本人よりも頭の良いキャラクターは書けない」という不文律だ。


 例えば著名な知略家が小手先の技に騙されるとか、天才と称されるキャラクターが実に安直な解決法しか見いだせなかった(更に優れた方法なら幾らでもあるのに!)場合である。

 個人的に思うのは「頭の良い」という概念は、突飛な発想が出来るというよりも、知識のストックが膨大であり、かつ、それを時と状況に応じて瞬時に引き出す(組み合わせる)能力に長けていることと見ている。当然、貯蔵庫の中には単純なもの、珍妙なものも含まれているだろうが、最適であるならば、それらも即断して提示できる。この前提で考えると、著者の頭脳よりも知識量の多い(頭の良い)人物は作れないのは当然のことに思われる。

 しかし、実際のところ物語を作るにあたっては、頭の良い(と評価される)キャラクターがどうしても必要になってくる。敵も味方もお惚けキャラだらけではコメディしか作れなくなってしまう――


 知識量に乏しい人が頭の良いキャラクターを書くにはどうしたら良いのだろう。

 そこで色々とアイデアを考えてみた。


①名言を引用してみる

 分かりやすそうなのは、引用することだろうか。「アインシュタインはこう言った――」とか「シェイクスピアは著作『ハムレット』にて――」とか言うだけで、何かしらの見識があるように見える。ここで引用する言葉は世界的に著名な人物でもいいし、ニッチな人物でも良い。ともかくそれっぽい説得力があればいいのだ。

 ただ欠点はある。その引用した言葉が行動に直結していなければならない。

 つまり「言ってみたかっただけ」というのはダメだということだ。ただの引用おじさんになってしまっては、頭の良い人のはずが、お惚けキャラになってしまう。著者の意図しないところでのキャラ崩壊は、悪い側面ばかりではないにせよ、基本的に制御が出来ない。あとやりすぎると悪ノリしていると言われかねない。


②先回りしてみる

「○○されたことも想定の範囲内だ」「その行動も見越していた」というセリフは、頭の良い人物(の先見性)を表現する言葉として、一度は聞いたことがあるだろう。

 一枚上手であることを表現することで、頭を良く見せる。実際は(先生とグルになっている)カンニングに近い方法なのだが、その結果としてテストの点数が高くなりさえすれば「頭が良い」と評されるわけである。

 あまりにピンポイント過ぎたり、「それも、これも、あれも想定の範囲内」と欲張りすぎると、頭が良いというより都合が良いキャラになってしまう。著者の愛が垣間見えることは、悪い側面ばかりではないにせよ、偏りすぎると嫌われ役まっしぐらである。この点もカンニングをした生徒と一緒の境遇だ。


③大きい功績、または高い地位を持たせる

 身もふたもない説明をするなら「この人は博士なので頭が良い」である。優れた発明品を作った、難関であった問題を解決したなど、そんな実績があるんだから頭もさぞかし良いことだろうと期待させる訳だ。もちろん、作中での活躍は、細かいロジックは抜きにしてともかく凄い結果を出せばいい。

 説得力を増すために、敢えて複雑怪奇な理論を主人公陣営たちに読み聞かせ、開始十分くらいで眠らせるなども有効な手段である。結果、主人公に感情移入する読者の大半は「正直よくわかんないけどこの人頭いいんだ」と思考停止する。

 問題点としては、実績の調整を誤ると、あっという間に頭の良さの無双状態になることだ。この人だけで十分だ、とか、なんで今までやらなかったのという突っ込みが入ることは必至である。あと高確率で便利屋扱いされる。「訳あって……」というフォローが必要になる手法だ。著者が力を抜くことは、悪い側面ばかりでないにせよ、力の抜きどころを間違えてはならない。特に根本の部分については。


④数字で表現してみる

 前述の「実績」もそうだが、数字というものは正直で分かりやすい。IQで知能を表現するのはもちろん、他の人の十倍の魔力とか、十分の一の時間で問題を解決できるとか、Int(知能)値が上限になっているとか、分かりやすい。「こ、こいつ、俺たちの十倍強い」というだけで、他はともかく上下関係だけは分かるという便利さだ。「正直よくわかんないけど~」と思考停止する。

 分かりやすいのだが、それが問題点でもある。分かりやすいだけ・・なのだ。「頭の良いキャラクター」という外面を作成したに過ぎない。その中身――具体的にどう頭が良いかが示されなければ、単なる死んだ設定となる。また、数字というのは桁を操作するだけで規模をいくらでも変えられるので、あっという間にインフレ突入である。ここに中身がない状態が加わると、物語、キャラクター云々ではない、単なる数値の比べ合いになる。著者が手を抜くことは、悪い側面ばかりではないにせよ、画竜点睛を欠くどころか、白紙に目玉を書いただけで「竜の絵」とタイトルをつけるのは詐欺と呼ばれかねない。


⑤人柄で売ってみる

「頭の良さ」というのは、いわば「有能さ」を表現するための一つの方法という気もする。すると、人柄(カリスマ性)によって「この人ならきっと頭も良いことだろう」と錯覚させることは出来ないだろうか。弱肉強食(上下)の頭の良さではなく、適者生存(左右)の頭の良さと読み替えてもよい。年長者やリーダーにあたる人物ならば、経験も多いだろう(と思い込む)し、冷静に部下に指示を出す様は、優れた人物としての評価を与えることになるだろう。味方なら頼れる好人物、敵なら確実に難敵と称されること確実だ――

 とはいえ、この「人柄」を描く方法、短期決戦には向いていない。優れた人物であるという印象を与えるには、何度かそのキャラクターに対する描写を入れておく必要がある。数字での表現の対極に位置するため、長所と短所がそのまま入れ替わる。あと、キャラクターの重みが増すので、簡単に処理できなくなる。火種を作るのにも長い時間がかかるが、火を消すのにも長い時間がかかる方法なのだ。

 著者が根を詰めて作ることは、悪い側面ばかりではないにせよ、詰めすぎて一歩も前に進めなくなってしまっては意味がない。


⑥達観させてみる

「すべてを受け入れる器量を持つ人物というのは、大体は有能」という不文律がある。何故なのか考えてみたが、思うに「決して余計なことはせず、必要なことだけする」という、謂わば静的な頭の良さが達観している人物には備わっているのだろう。加えて、台詞の一つ一つにどこか哲学的な雰囲気を感じさせることが出来る(ように見える)からか。「私はただ宿命に従うのみだ……」とか、強者の空気がするわけで、間違っても「単なる中二病イエスマンじゃん」とは呼ばせない雰囲気が備わるわけだ。

 さて、弱点は二つ。

 一つ、活躍させにくいことである。達観しているのだから、出しゃばってはいけないし、ハーレムを作ってはいけない。既に達しているので成長も期待できない。これを逆手に取って、超然としたままバリバリ異性交遊させてみたり、普段はお茶らけているが、ある特定の一部だけ達観しているといったキャラクターもいる。なんだか「頭が良い」云々より「底が深い」キャラクターの作り方になっているような。

 二つ、著者にもある程度の知識が必要になること。当たり前だが「達観している」人物は、世間では少数派に属している。聞きかじっただけの知識で作り込もうとすると、あっという間に「意味深に出てきたはいいが、結局謎のまま退場したキャラクター」となる。著者が未開分野に挑戦することは、悪い側面ばかりではないにせよ、ある程度の準備をした上で冒険すべきである。


⑦敢えて変人にする

 大穴。ギャップを狙ってみる。「頭が良い」というより「天才」と呼ばれるキャラクターになるだろうか。達観とは逆にキャラクターをとことん濃くさせる。その上で実は抜け目のない賢さも持ち合わせているとなれば、人気はうなぎ登り、主人公勢を食わんばかりのインパクトを残せるという寸法だ。性格をはじめとして、癖、外見、口調など攻める方法は多岐にわたる。

 人は「やればできる」という言葉に弱いので、こういう人物が土壇場でいいところを見せると「あいつ、意外と頭良かったのか」と、しきりに感心するわけである。

 弱点。スべる可能性が高い。以上。著者は大穴に賭けることについて、悪い側面も考慮した上でギャンブルに臨むべきである。



 いかがだっただろうか。

 考えてみたのだが、「頭の良い人物」を書くこと自体が一種のリスクのような気がした(暴論)。これがショートショートの世界だったら「僕天才だよーん、何でもできるよーん」で説明は終わりであるが、長くなればなる(キャラクターが増える)ほど、キャラクターのランク表のようなものが出来上がり、著者と読者の間で認識の乖離が発生する。どんなにこだわって描写しても、それが読者に伝わらなければ意味がない。数値で表現するにしても、インフレを招きかねない。でも、出来るだけ簡潔に表現したい。どうしたものか――


 ああ、ひらめいたぞ。

 これなら「評価されている」ことが確実に伝わるし、インフレも起こらず、簡潔に表現できる。


⑧「○○が出来るなんて、流石、××は頭が良い」

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