お返事




 夕暮れの中、三階の教室から校庭を見下ろす。夏が過ぎて運動部に属するほとんどの三年生は部活を引退した。確か今年は、サッカー部がそこそこ良いとこまで行ったらしい。詳しくは知らないけど。

 鞄から加菜子の遺書を取り出し、封筒から出して読み返す。



『最後の最後に、人生は美しかったと言える自信、ありますか?

 私が死んでからのこの質問の返事、予想。


 マスコミ→ドン引きして無視

 教師→哀れんで誤魔化す

 親→キレる

 部活の人達→新しい悪口の種にする


 マスコミが取り上げてくれるか分からないけど、その他はけっこう自信ある。


 それではさよなら。 加菜子』



 結果はどれも見事に大当たりだった。加菜子はエスパーだったのかもしれない。

 私は加菜子の遺書を机の上に置き、風で飛ばないようセロハンテープでとめ、その隣に私が書いた手紙の封筒も置いた。

 そして自分の体を見下ろす。痣と擦り傷だらけの体を。振り向いてもう一度机を見る。油性ペンでたくさんの暴言が書かれた私の机を。

 加菜子、死んじゃうんだもん。

 私よりぬるい地獄だったのに。

 でも、これは自意識過剰かもしれないが、加菜子は私のために死んでくれたのかもしれない。私が死ぬための踏ん切りをつけてくれた。友達と言うほど仲良くはなかったけど、最後に私に託してくれた。

「……」

 いや、やっぱり思い込みか。加菜子は誰でも良かったのだろう。ただこの確認を実行してくれそうなのが私しか居なかっただけで。

 加菜子の遺書の隣に置いた、私の遺書。

 中身は加菜子へのお返事。

 あのとき返せなかった回答。



『世界がこんなありさまだから、相対的に見て人生は美しかったよ。』





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Life was... 九良川文蔵 @bunzou

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