第5話 自治会長と風紀委員
主人公田宮真広とその友人下司圭吾は入学早々に大学内のサークル勧誘を偽装していた宗教団体に監禁される。しかし大学に通う四大財閥の1つにして探検サークルサークル長である矢車千歳の手によって難を逃れる。だがそんな2人を新たな事件が待ち受ける。
「洞窟探検? 」
大学にある新棟5階の空き教室に4人の男女が集まっていた。
「実はうちの大学って近くに洞窟があるのよ 」
「へぇー、 そうなんすね 」
圭吾は興味ありげに身を乗り出す。
「そこは妖精と関係あるのか? 」
「ないわ! 」
「ないのかよ! 」
真広は自信満々に言い切る千歳に思わずツッコミを入れる。
「まあ確かに妖精は探してるけど探検サークルなんだから普通の場所も探検するわよ 」
オカマの大男山城がそう言い地図を広げる。
「意外と近いんすね 」
圭吾の言う通り洞窟の場所は大学の敷地内であった。
「今回は2人だけでこの洞窟を探検してきてもらうわ! 」
「は? あんたらは何すんだ――がっ!? 」
予想外の言葉に真広が千歳の方に顔を向けると額に黒い棒が飛んできた。飛んできた棒が当たり真広は後ろに倒れる。
「痛え…… 」
「あんたらなんて、 敬いが足らないわね? 」
倒れた真広に千歳は不気味なほど優しく微笑みかけ、2本目の棒を手に取る。
「実は去年私と千歳はその洞窟は探検してるの 」
山城は何も無かったかのように話を続ける。
「あんた…… 動じねえな…… 」
「あの子のああいうとこは慣れっ子なの 」
床に倒れ込む真広に山城はウインクで答える。
「で、でも千歳嬢、 初心者の俺らだけじゃ危なくねっすか? 」
圭吾が手を挙げ発言する。
「大丈夫よ、 GPSと通信機は持って行ってもらうし何かあった時のために待機はしておくから 」
「そ、 そっすか 」
「それじゃあ山城! 」
千歳が山城を指差すとやれやれとホワイトボードに模造紙を貼りだした。
「日時は5月1日午前11時に大学広場に集合よ 」
「ゴールデンウィークかよ 」
「必要な道具は私で調達するわ! それじゃ今日のところは解散! 」
「まだ痛むんだが…… 」
長い廊下で真広は額に手を当てながら呟く。隣を歩く圭吾はからかうように軽く笑っている。
「しっかし探検とか小学生以来だよな 」
「俺は入学前が最後だった気がする 」
「田舎育ちのマヒロが!? 意外だな 」
2人がそんなたわいのない話をしているとガヤガヤと騒がしい教室に差し掛かる。
「なんか騒がしいな 」
扉の近くの看板には風紀委員と書かれていた。
「風紀…… 委員? ここ大学だよな? 」
真広はそう呟きながらドアに近づく。するとドンッという鈍い音と共にドアが真広の方に飛んでくる。
「だっ!? 」
真広は飛んできたドアの下敷きになる。その様子を見ていた圭吾は大丈夫か?と真広に声をかける。
「何をするのだ烏間! 」
「黙れ小鳥遊ィ! 」
ドアの外れた教室の中から男女が争うような声や物音が聞こえてくる。
「なんなんだ一体…… 」
「覚えておけ小鳥遊ィ! いつか殺す! 」
真広が自分の上にある扉をどかそうとしていると、教室から小学生くらいの身丈の少女が教室から出ていきそのドアを踏みつけ何処かに消えてしまった。同時に断末魔の様な声が聞こえた。
「おのれ烏間…… 」
圭吾がアタフタしていると今度は背の高い男がよろよろと教室から出てきた。
「あ、 小鳥遊先輩…… 」
現れたのは学生自治会長にして千歳と同じ2年、小鳥遊一だった。
「君は…… どこかで会ったな 」
「と、とりあえず友人がドアの下敷きになってるんで手伝ってもらってもいいっすか? 」
「なっ! それはすまない! 」
2人が慌ててドアをどかすと真広は白目をむいていた。
「――こ、ここは? 」
真広が目を覚ますとふかふかなソファーに横たわっていた。
「起きたかマヒロ 」
「すまない田宮くん 」
目を覚ますと圭吾が真広の寝ていたソファーに近づいてきた。奥には申し訳なさそうな表情を浮かべる小鳥遊がいた。
「ケイゴに、あんたは…… 小鳥遊先輩? 」
「お前を俺と小鳥遊先輩がここまで運んだんだぜ? 」
「そうなんすか…… どうも 」
真広は小鳥遊に頭を下げる。
「いや、感謝されることでは無い、 君がこうなったのは我々のせいなのだから 」
「で、 何があったんすか? 」
圭吾が聞くと小鳥遊は申し訳なさそうに語り始めた。
「実はあの部屋は風紀委員を自称するサークルの部屋なのだが 」
「風紀委員って大学にもあるもんなんすか? 」
「普通はない、 そもそも我々自治会がある大学も多くはないからな 」
小鳥遊はふうと一息つくと話を続けた。
「教授達に無理を言ってとある女が設立したんだ 」
「あの女? 」
2人は教授達に無理を通したという女性に興味を持った。
「下司くんは見ただろう? ピンク髪のチビ助だ 」
「あの人会長さんの妹さんじゃなかったんすか!? 」
圭吾が驚くのは無理もなく、あの時の少女は身長140cm程の小柄な体型だった。
「彼女は我が小鳥遊家とは犬猿の仲である烏間家のご令嬢''烏間すいせい''だ 」
「烏間!? 」
「なんだまた有名人か? 」
驚きの声を上げる圭吾と対照的に真広はピンと来てない様子である。
「お前覚えてないのかよ、 うちの学校の四大財閥 」
「あー、 また金持ちか 」
真広は圭吾の言葉でようやく思い出した。
「しかしなんでまた烏間嬢はそんなサークル立ち上げたんすか? 」
「私との会長選挙に敗れたのが気に食わなかったんだろう 」
厄介な話だと深いため息を着く。
「教授達からもどうにかして欲しいと言われていてな、 よくあの女にサーク停止を持ちかけては喧嘩になるのだ 」
「この学校の金持ちはまともなのがいねえな 」
真広はそう言いながら千歳を思い浮かべていた。
「私を一緒にするな 」
小鳥遊は怪訝そうな顔を浮かべた。
「それじゃ真広も起きたし帰るとします 」
「もう少し時間いいかな? 」
席を立つ圭吾を小鳥遊が呼び止める。
「君たちあの探検サークルに入ったんだな 」
「あ、そっすね 」
「あの女のことだ、 どうせ脅されたのだろう 」
呆れ顔を浮かべる小鳥遊の言葉に真広達は目を逸らす。その様子を見た小鳥遊は図星かとまたため息をついた。
「なら学生自治会に来るといい 」
「自治会に? 」
「ああ、 歓迎するよ、 特に下司くんはあの警視総監の息子―― 」
「黙れ会長 」
小鳥遊の話を遮るように圭吾が声を荒らげる。その表情には凄まじい怒りが眉の辺りに這っている。
「俺の前でオヤジの話をするな 」
そう言うとドアを勢いよく開き自治会室を後にした。
「失礼をしたかな? 」
「まあ色々あってオヤジ嫌いなんすよあいつ 」
「やはり厳しいからか? 」
椅子から立ち上がっていた真広は再びソファーに座った。
「中学ん時なんすけど当時まだ警察署長だったオヤジさんや先生たちからの重圧に耐えきれなくなって不良やり始めたんすよ 」
「不良? 」
「と言ってもタバコとか無縁でしたけどね、 喧嘩三昧でしたし 」
真広は圭吾と喧嘩に明け暮れた中学高校時代の話を楽しそうに語る。小鳥遊は楽しげに語る真広を見ているうちに笑みがこぼれていた。
「随分と仲がいいようだな 」
「まあかれこれ6年になりますからね 」
「彼の気持ちはよく分かる、 私も家族や周りからの重圧に耐えかねて家出することがあったからな 」
小鳥遊は彼には悪い事をしたと呟き窓の外を見つめた。その顔は昔を懐かしんでいるようにも見える。
「よければ下司くんに小鳥遊が謝っていたと伝えてほしい、 それと学校内で暴行沙汰はやめてくれよ 」
小鳥遊は冗談交じりに言った。
「会長もなるべく喧嘩は抑えてくださいよ 」
「はははっ! 1本取られたな! 」
高笑いする小鳥遊を背に真広は自治会を後にした。部屋から出る時ふと「矢車千歳をよろしく頼む 」と聞こえたが聞こえないふりをした。
「その金髪はなんですか! 」
自治会室を後にした真広は圭吾を探しに学校内をうろついていると少女の怒鳴る声が聞こえてきた。
「まあまあいいじゃないですか先輩 」
「大学生だからって髪を染めては立派な社会人に―― 」
声の方へ向かうと圭吾が小柄なピンク髪の少女に叱られていた。
「どうしたケイゴ 」
「あ! マヒロ助けてくれよ! 」
「あなたは彼の友人ですか? なぜ彼の非行を止めないのですか! 」
ピンク髪の少女がこちらを指差し怒鳴りつける。真広は先の会話ででた特徴から烏間すいせいはこいつかと気付くと同時にふつふつと怒りが込み上げてきた。
「さっきドア蹴破ったのはこのガキか 」
「ガキじゃな―― 」
「てめえの蹴破ったドアの下敷きになって怪我したんだがどうしてくれるんだてめえ 」
真広に対して烏間も反論しようとするが真広の剣幕に押され後ずさる。
「き、 今日はこの程度にしておきます! 」
烏間はばつが悪くなったのかどこかで聞いたことあるような捨て台詞を吐きどこかえ消えてしまった。
「また面倒なのに目をつけられたな 」
「何よあの1年! 怖いんだけど! 」
真広の圧に押された烏間はどこかに向かうでもなく走っていた。
「覚えてなさいよ! 私が公正させるんだから! 」
そう言いながら曲がり角を曲がるとドンッと人にぶつかり尻もちをついた。
「ってえなガキ 」
烏間がぶつかった相手は柄の悪そうな青年だった。青年は烏間を睨みつけ、胸ぐらを掴みあげる。
「ガキじゃな…… ヒッ! 」
おどけて声がちぢこもる烏間に対して青年は腕を振り上げた。
「何をしている 」
青年と烏間が声のする方を向くとそこには小鳥遊の姿があった。
「学生自治会の名のもとに大学内での暴行は許さん 」
鬼の形相で向かってくる小鳥遊に青年は舌打ちをして掴みあげていた手を離しその場から逃げ出した。
「きゃっ! 」
烏間は勢いよく地面に投げつけられる。恐怖で腰が抜けたのか立ち上がることが出来ないでいると、小鳥遊はお姫様抱っこの如く烏間を抱えあげた。
「大丈夫か烏間、 怪我はないか? 」
そう問いかける小鳥遊に烏間の顔は真っ赤になった。腕を振り払おうともがくが暴れるなと一蹴され大人しくなった。
――顔がとても熱い
この感情が情けない姿をライバルに見られた恥ずかしさなのかはたまた別の何かなのかは烏間本人にもまだ分からない。
妖精とよく似た彼女の話 群青アイス @gunjou_ice
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