第10話 紅蓮の龍
突如現れた赤い閃光、もとい
「セツナちゃん今までよくやったわ。後は引き継ぎます。」
一緒に来た蒼夜のお母さんは治癒魔法のスペシャリストだ。
安心して出た涙を拭いながら治癒を変わってもらう。
よかった。これでソウはたすかる。
血にまみれた手を、似たような惨状の服のすそで拭い、ごわごわになってしまった藍色の髪をこわごわ撫でる。
「ソウ、はやくげんきになって。」
ポロっとこぼれた言葉が乱入者によって止められていた戦場の時計の針を回し始めた。
「貴様ァ、なに者だァ~。」
そのダミ声は先ほどまでと比べて震えていて、頼もしい真紅の背中とは対照的だ。
「私はネーベルネスト魔王国、元老院第3席
そういうあなたはセシルセルジュ神聖国の教会騎士団所属とお見受けする。他国にコソコソと侵入し、子ども相手になにをしている。」
威厳をもった声が冷ややかに問いかける。
グッと言葉に詰まり、偉そうなおじさんが一歩引くのに合わせ、すかさずソウパパ(蒼夜のお父さんをあたしはそう呼んでる)が一歩詰める。
「他人の国に不法侵入して人さらいか。教会騎士も落ちたものだな。全員牢屋にぶちこんでやろう。」
その宣言と同時に掴んでいた剣を握り割り、左拳で殴り飛ばす。
周囲に大きな衝撃をまき散らし、ぶつかった壁を半壊させながらその人はまだ立っていた。
右手に折れた剣の柄を、左手の瓦礫を支えにして壊れた鎧を震える膝で持ち上げ、怒気を発する。
「これはァ、『神意』だァ。俺様はァ、
アギルグレンは、自身とソウパパから同じくらい左手に横たわるネネちゃんに向けて、折れた柄を媒体に顕現させた、巨大な光の斧を振り払う。
「そうか。この子も『器』か。」
ハラハラと見守っていたあたしの耳にソウパパの悲しそうな声が届いた。
『器』ってなんだろう?
ネネちゃんの周りに張られた炎の盾が消え、その無事な様子に胸をなでおろす。
唖然とした様子のアギルグレンに向かってソウパパはカツっカツっと靴音を立てて近づいていく。
その音に我に返ったアギルグレンが慌て始める。
「ま、待てッ。『器』の排除はそちらの国益にも繋がるゥ。それにこれは神のご意思だァ。」
「黙れ。」
その声の冷たさにあたしの背筋までブルッと震える。
怖くて怖くてたまらない。
「この子が害をなすかどうかは大きくなったこの子が決めることだ。それに。」
炎で創られた剣を喉元に突き付けてソウパパが告げる。
「お前たちの信じる神と私たちの信じる神は違う。そもそも、お前たちの語る神の意志は本当に神の物なのか疑わしい。」
その言葉の意味を理解し、般若のようになった顔にソウパパの拳がめり込み、今度こそアギルグレンは沈黙した。
「さて、そろそろ紅夜が自治隊を連れてくるはずだ。蒼夜の容体は?」
「治療はおおむね終了したわ。もう問題ないはずよ。」
緊張感が一気に抜けて、安堵感に足が立たなくなる。
這って蒼夜の元へ近づこうとするあたしを力強い腕が抱き上げ、やや強めに頭が撫でられる。
「セツナちゃんも無理をする。でも、よくやったね。」
叱りたいのと褒めたいのが混ざった複雑そうな顔を見てあたしの涙腺が壊れる。
「あ゛りか゛とぅ、こ゛せ゛い゛ま゛すぅ~。こ゛わ゛か゛っ゛た゛。よ゛かったよ゛お゛~。」
ぴゃーっと泣くあたしに困惑していたソウパパは、ちょうどよく自治隊の人を引き連れてきたコウにいちゃんにあたしを預けて指示を出しに行った。
泣きじゃくるあたしの背中を撫でるコウにいちゃんの手の平がとても温かかった。
2度目の人生ならキミを守れるだろうか? 抹茶風味 @ryokutyamania
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます