第32話 魔王を守る勇者(最終話)

 パーティーが終わって、新しい部屋で目が覚めた。

 まだ必要最低限の物しかないこの部屋に、俺の私物で埋めて、俺の部屋らしくしないとな。

 これから、この世界で生きていくって、決めたんだから。

 部屋の扉を開けて、外に出たら、玲於奈も丁度出てきたみたいだ。


「おはよう、玲於奈」


「おはよ、兄ちゃン。まだ眠いわ……髪、梳いてくンない?」


「はは、まったく。しょうがないな……そっち行けば良いか?」


「ン……」


 頷く玲於奈の部屋に入る。

 まぁ、俺と変わら……と思ったら、ベッドの上にハルコさんが居て衝撃を受けた。


「れ、玲於奈、いくら男に興味が無くても、百合は……いや、兄ちゃんはそれすらも受け入れるけども!」


「違げぇよ!?こいつが朝気付いたらいつも私の上で寝てンだよ!なンもしてねぇかンな兄ちゃン!!」


 慌てる玲於奈がおかしくて、笑ってしまった。


「ったく……!」


 怒りながらも、俺の前に座る玲於奈。

 相変わらず、綺麗な髪だ。

 染めていた茶色の髪の毛から、地毛の綺麗な黒髪の部分があった。


「なぁ玲於奈、元の黒髪には戻さないの?」


 茶色の髪の毛をした玲於奈も、俺は好きだけど。

 でも、昔の黒いサラサラな玲於奈の髪も、好きだったから。

 特に深い意味は無く、言ってしまったんだけど。


「兄ちゃンは、黒髪の方が好みなン?」


「うんー?どっちの玲於奈も好きだぞー?」


 そう言いながら、玲於奈の髪を梳かす。


「それじゃ分かンねぇじゃン……」


 玲於奈が小声で何か言っているようだったけど、俺は髪を梳かすのに夢中で、気付いていなかった。




「よし、これくらいで良いか?」


「ン、あンがと兄ちゃん。やっぱ、兄ちゃんに髪を梳かしてもらうのは気持ち良いンだよな」


「そっか、これくらいの事ならいつでもしてやるから、また言って良いからな?」


「ン」


 俺達兄妹の、いつもの朝だ。

 それから、俺は朝食をいつもなら作るんだけど……。


「あ、テリヤ様~、妹様~、おはようございます~!」


「おはようスラリン」


「うす」


 なんでか、スラリンは玲於奈の事を妹様と呼ぶ。

 まぁ、気にしても仕方ないし、俺から何か言うのもおかしい気がするので、何も言ってはいない。


「朝食の準備ができましたので~、ミレイユ様の部屋へ来ていただいてもよろしいですか~?」


「え、ミレイユの部屋で食べるの?」


「え~、テリヤ様、それぞれの部屋で~、もくもくと一人で食べる方が良いんですか~?」


「俺は別にそれでも……」


 良いと言おうとしたんだけど。


「テリヤ様~、ミレイユ様に一人もくもくと食事をさせるおつもりなんですか~?」


 ぐっ、言いかえられたらすっごく罪悪感を感じるのはなんでだろう。

 一人もくもくと食事をしているミレイユを想像し、言葉に詰まる。

 玲於奈も俺と同じ事を考えたのだろう、何も言い返さなかった。


「い、行きます……」


「は~い~!先に行っててくださいね~!」


 スラリン、恐ろしい子っ!


「兄ちゃン、あの人に私勝てる気がしないンだけど。性格的な意味で」


「ああ、俺もだよ玲於奈……」


 二人で苦笑しながら、ミレイユの元へ向かう。

 部屋に入ったら、ベッドの上に寝転がりながら、こっちを見てきた。


「おお、よく来たの二人とも!さぁ、こっちでゲームするのじゃ!」


 そう言うミレイユは、ユキと一緒にUNOをしているようだった。

 二人でUNOっておい……。


「おー、懐かしいじゃン。昔、よく兄ちゃンとしてたなぁ」


 人の事言えなかった。

 俺も玲於奈と二人で、よく遊んでたからな……。


「……だな。よし、やるかっ!」


 そして、スラリンが飯を運んでくれるまで、俺達は四人でUNOをしてた。

 毎回ビリになる俺。

 横が玲於奈だからか、そうなのか!

 遊んでる途中で、ようやく目を覚ましたのか、ハルコさんが息を乱してきたんだけど……。

 急いで来たからか、巫女服が乱れてて、その……胸がかなり見えていた。


「ケイ!上着をはだけ過ぎだかンな!!そのでっかい脂肪の塊で兄ちゃンを誘惑すンじゃねぇ!!」


「ひんひん!?そんな気ありませんよぉ!?私はお姉様一筋ですよぅ!?」


「それはそれでキメェンだよ!!」


「ひぃーん!」


 うん、なんていうか……濃い人だよね、ハルコさんって。

 聞いた話では、ハルコさんが、以前話していた治癒を行える稀少な魔族らしい。

 世間は狭いな。

 そして、皆で食事を終えて……今思ったら、男女比が凄いな。

 俺以外皆女の子だよ……。

 まぁ、妹で慣れてるからか、そこまで緊張しないけど。


「さてテリー、玲於奈が来る前に話していた件、本格的に取り組む事にしようと思うのじゃが」


 食事を終えて、お茶を飲んで皆でまったりしていたら、ミレイユが言ってきた。


「なンの話?」


 玲於奈が不思議そうに聞いてくるから、ダンジョンの話を説明する。

 ミレイユが、人をあまり殺したくないと思っている事も。


「へぇ面白そうじゃン!それなら、入る度に構造が変わるようにしたらいンじゃね?」


 おお、それは俺も思いつかなかった!

 やっぱり、ゲーマーな妹が居ると心強いな!


「構造を自由に変えれンなら、転送をさせまくって、自分がどこに居るか分かりにくくするのも手なンだよ。大抵帰り道が分かってるから、先へ進めンかンな。帰り道が分かンなくなったら、まずは帰り道を探そうとするもンさ。そうすりゃ、あンま進めねぇうちに、帰る事になンよ」


「「おおー!!」」


 ミレイユとスラリンも、玲於奈の話を聞きながら、しきりに頷いている。

 ……良いな、こういうの。

 これから、俺はこの世界で生きていく事を決めた。

 それに、ミレイユはもう、俺と離れてもHPは減らない。

 つまりは、いつでも女神の元へ行ける。

 だけどスラリンが言うには、俺はまだまだ弱すぎるらしい。

 だから、魔王ダンジョンでレベルを上げながら、魔王城と城下町に、ダンジョンを作って時間を稼ぐ事にした。

 『勇者』の進行を遅らせながら、自分達のレベルを上げ、この世界を創り上げている『女神』に、物申しに行く。

 それが、俺のこの世界での最初の目的だ。

 後は……皆と、こうして楽しく毎日を過ごせたら良いなと思っている。



 それから数日が経った。

 魔王城と城下町にダンジョンを作るのを進めながら。

 今日は魔王ダンジョンの奥へと進んでいた。

 俺と玲於奈、そしてミレイユ。

 更には、あの時は入らなかった、スラリンも入ってきた。

 最初は驚いたけど、スラリンだからなぁ……で落ち着いた。

 『勇者』が二人に『魔王』が二人。

 今考えても、凄いパーティーだな。

 奥へ進むほど、魔王ダンジョンの敵はどんどんと強くなる。

 更には、攻撃も仕掛けてくるようになった。


「くそっ、魔王ダンジョンなのに、魔王を殺そうとしてきて良いのか!?」


「あ~、ここでは魔王って認識、ありませんからね~。サーチアンドデストロイですよ~」


 スラリンが恐ろしい事を言う。

 こっちがじゃなくて、向こうがな所が特に。


「兄ちゃン、このスライム黒いンだけど」


 うん、俺もそう思う。

 話していたら、また魔物が出現した。

 こちらに今すぐにでも、飛び掛かってきそうだ。

 ミレイユを見たら、とびきりの笑顔で言ってくれた。


「妾を守れ!勇者よ!」


 俺と玲於奈は顔を見合って、笑って言った。


「「任せなっ!!」」


 今日も俺達は、魔王ダンジョンでレベルを上げる。

 強くなって、『女神』に会いに行く為に。



-END-

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魔王に召喚された俺「妾を守れ!勇者よ!」勇者が魔王を守るってどういう事だよ!? @sora-runa

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