重厚な作品ながら、軽妙な語り口で描かれる本作は、視覚障害者のサムと『俺』の友情の物語です。
4,000文字という少ない文字数ですので、必然的に2人の会話は最小限となります。
しかし、それでも熱い友情を感じさせるのは、サムと『俺』の、才能と境遇を対比させつつ、『走る』という行為を通して2人の信頼関係が構築されているからだと思います。
また、本作の魅力のもう一つが、『俺』の豊かな語りです。
サムの境遇を語りながら、そこに反射するかのように『俺』の感情と言動が描かれ、試練の連続の中でも、正に鏡のようにシンクロする2人の心が、希望への歩みを表現しています。
2人は陸上競技選手のランナーとして、そして、人生のランナーとして、希望を与えてくれる走りを見せてくれました。
これは本当に四千字なのか!?
何度も文字数を確かめたくなるぐらい物語が極限まで濃縮されているのには驚かされました。盲目のランナーサムとその相棒である俺が東京パラリンピックに挑まんとする感動のスポーツドラマです。
恥ずかしながらパラアスリートのランナーには伴走者がいることすら知らなかったので、最初から最後まで新鮮な気持ちで楽しむことが出来ました。
目が見えないというだけでもハンディなのに、コロナウイルスによって2020のオリンピックは延期。次から次へと襲い掛かる試練、また試練!
神は乗り越えられる者にしか試練を与えないというけれど、神様、お願いもう止めて! 読者の方が悲鳴を上げたくなるような状況です、しかし当人であるサムと主人公は……。
読む人すべてに勇気を与えてくれる名作。
苦しい現状に心が折れそうな貴方へ、おススメです!