幻燈と標本と埃と妖精と

何かが変わったのかもしれないのです。

誰にも言わないからと告げられたあの日、いないものはいないのだと答えていれば。出棺に立ち会ったあの日、掛けるべき言葉のひとつでも見つけることができたなら。柔らかい心、というものに、手を伸ばすことができたなら。割れてしまいそうな心の感触を、確かめることができていたなら。

何かが変わったのかもしれないのです。

大人びたルオの背景に、何があったのかはわかりません。そもそも、"僕"は彼とリリーのささやかなそれを目にしているわけですから。その体験こそが、"僕"の瞳に大人びたルオの姿を映した一因であるのやもしれません。

とはいえ、リリーの──"彼女たち"のそれが単なる戯れに過ぎなかったとして、少なくともあの瞬間ルオとリリーの間には、"僕"とリリーの間には決して通うことのなかった、何かが通っていたのでしょう。

幻燈を見ている心地がしました。振り返ることは許されても、もう改めることはできないのでしょう。あの日の自分にピンを刺して。箱の中に仕舞っているひとときは、あなたにだってあるでしょう。見返して、無性に溜め息をつくあなたもいれば、もう眺めることはないと、頑なに埃を積もらせているあなただっているでしょう。

誰にも言わないからと告げられたあの日、彼女の名前を答えていたなら。他の子の名前を答えていたなら。内緒だよ、と人差し指を唇に当てることができていたなら。

もう、改めることはできないのだけれど──。

何処かへと追いやってしまった、埃塗れの標本箱を探しに行きたいと思います。

余談。女の子は何と云いましょうか、妖精じみた年頃があるように思うのです。お砂糖とスパイスと、素敵な何もかもでできている。そんな時期があるように思うのです。