第三章 薔薇まとう愛の使徒_三
いよいよお客さまがリエニスの館にやってきた。
ベールをまとったフレデリカは仮面をつけたエリシオと共ににこやかな
「リーシュから
ミリアはソファに座り、疑いを持った
「そうですわ」
自信を持って答えるが、ミリアは
フレデリカは背筋を伸ばし、
フレデリカはここ数日でレディに見合った表情と声のトーンや話し方を
「改めまして、わたくしはリエニスの館の女主人です。気軽に『レディ』とお呼びくださいな」
印象を残すために
「どこかで見たことあるような」
ミリアの
「ああごめんなさい。見過ぎてしまったわ。ええっと、あなたの夫かしら?」
その
(どこをどう見たら夫なの!? ねえ!?)
(こんなときにフリーズしないで!)
何度もつんつんしながら、どうやって言い訳すればいいのかを必死に考える。フレデリカがリエニスの館の女主人で、エリシオがその協力者という設定までは決めていたが。
いまのエリシオは華やかさよりもおちついた
(いまさら従者というのもね……堂々とレディの隣に座っているもの)
それに自分より身分が上の相手に従者役を
困り果てたとき、ようやくエリシオが口を開く。
「すみません。おれは彼女の『バトラー』です。少しでも長く『レディ』の隣にいたくて座っていました。いまお茶の準備をいたしますね」
フレデリカは心の中で声にならない叫びをあげる。
(なによ! その、言い訳は! 通用すると思っているの!?)
しかも絶対にこの場の空気から
「いやだわ、お客さまの前でなにを言っているのかしら?」
するとエリシオの体がぴくりと跳ねる。仮面と角度によって瞳がよく見えなかったが「ごめん、しばらく任せる」と無言で
エリシオの後ろ姿を見送ると、ミリアや彼女の侍女たちが温かい視線を向けてくる。
「もしかして、禁断の恋?」
「違います違います。
背後でガチャッと食器がぶつかる音が聞こえてきて、フレデリカはとても不安になった。
ぼんぼんだった彼がはじめての
(……仕方ないわ)
フレデリカは気持ちを切り
「では結婚式の具体的なお話をさせてもらいますわ」
手書きのパンフレットをテーブルの上に置く。教会の雰囲気やどんな
「
「そうですわ。よりよい結婚式を行うためには約二時間の打ち合わせを挙式当日までに最低でも三回はやります」
前世の結婚式では半年から一年ほど時間をかけて準備するが、いまのところフレデリカが手がける結婚式は教会で儀式を行うことに重点を置き、
「そのうちの一回は教会でやるのね」
「ええ。儀式当日の流れを
「そう……わかったわ」
気乗りしない返事だった。フレデリカはミリアの様子や侍女の反応をさりげなく観察する。そこにエリシオが戻ってきて、テーブルにティーカップを置いて紅茶を入れてくれる。ふわっといい
ミリアも紅茶を飲んで一息つくと、パンフレットを指さす。
「それで教会の中はどんな
「こちらをご覧ください」
フレデリカはパンフレットをめくる。線画はそこそこ得意だったため、絵を
現在、教会に常備しているのは赤と青のバージンロード用の
「理想のイメージは浮かびそうで?」
「そうね、もっと色を足したいんだけど……」
ミリアの言葉が
「どうかされました?」
「その、予算を
ミリアの結婚が政略結婚であることは、事前にエリシオに調べてもらっていた。結婚式はお金がかかるものだ。予算で喧嘩することはよくある。
(でもミリアさまの婚約者さまは節約しているだけなのよね)
彼女と二人で住む
ミリアは
黙っていたのを否定と感じたのか、ミリアの視線がさがる。
「ごめんなさい。とんでもない
「いいえ。できますわ」
「本当に?」
彼女はおそるおそる顔をあげる。フレデリカはほほえんでみせた。
「ミリアさまと婚約者さまがお好きな色はなんでしょうか?」
「わたくしは
「わかりました。では
「素敵だけど、ちょっと色がきつくならないかしら? 彼、シンプルなほうが好きなの」
自分の好みよりも婚約者の好みを優先しているとは。はじまりが政略結婚だとしても、彼女は彼を愛しているのかもしれない。
「
ああ、と侍女の感心した声があがる。
「それならミリアお
「そうなの? じゃあそれを使いましょうか。……ところでドレスのことも相談していいかしら? どうしてもラベンダーカラーのものが着たいんだけど、装飾が派手で教会にそぐわない気がして」
「でしたらミリアさま、そのドレスを再度仕立て直して理想のドレスに生まれ変わらせるのはどうでしょう? そうすれば予算を抑えることができますよ」
するとミリアと
その後は会話に花が
「すごいわ! いまから楽しみになってきたわ!」
ミリアは満足してくれたようだ。楽しそうに声を
「失礼します、お嬢さま方。そろそろお時間ですよ」
「あら本当だ」
エリシオに声をかけられて、ミリアは
フレデリカは心を静めるように一度深呼吸をする。ここからが一番重要な場面だ。
「それではミリアさま、
「確か、前にいただいた手紙の内容だと、見積もりの三割が前払いなのよね?」
「そうですわね。教会の貸しきり料と
フレデリカは先ほどまでの会話の内容をもとに見積もりを出す。
料金は貴族相手なので高めに設定している。さらに貸しきり料の中には大司教たちの取り分も
今後は教会の見学もあり、実際に雰囲気を
その予算に見合った仕事をするのがプロだ。
「はいどうぞ」
ミリアはテーブルに
「あの……指定した三割よりも多いような」
おそるおそる
「それだけわたくしが満足したということよ。
「!」
ちらりとエリシオの様子をうかがうと、彼は期待を込めた
ますます本番を成功させなければと意気込んでいると、ミリアは
「あなたと出会えてよかったわ。これからもよろしくね、レディ」
「はい、お任せください」
フレデリカは
【発売記念!大量試し読み!】転生令嬢のブライダルプランは少々破天荒につき 夏樹りょう/角川ビーンズ文庫 @beans
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