逃ゲタ先ニ待ツ結果

双子姉妹と行き過ぎた愛

 こんな俺には、逃げた代償が与えられても当然だと思っていた。

 だから、自分の身にどんなに悪い事が起こっても、それが罰だと甘んじて受け入れようと思っていた。

 逃げる選択肢しか選べなかった……いや、選ばなかった俺にはそれを受け入れなければいけないという定めが重く圧し掛かっていた。

 ここまで最低な男に成り下がったんだ、一つだけ……たった一つだけ言わせてもらえるのなら、この自由を楽しみ尽くした死に際に、その代償を受け入れたい。


 「ぁ……あ、う……うそだ……ありえ、ない……」


 ――――――でも、もうそれすらも許されない様だった。

 死に際どころか、まだ先どころか、逃げ続けた代償は――――――すでにこの身に降りかかっていた。


 「零さんみっけ❤あっはは❤」

 「だめだよ零さん、ちゃんとスマホ持ってかなくちゃ❤」


 諸突猛進な愛を向ける双子アイドルの姉と、冷静沈着に愛を向ける双子アイドルの妹。

 瓜二つでも、性格や示し方は違う……けれど、一心に同じ愛を向けてきていた。

 ――――――ここに居るはずの無い二人が、いたずらっぽく笑って俺を見据えていた……。


 「ああぁっあぁぁぁぁぁっっっ!!!??!」


 腰が抜け、糸の切れた操り人形の様にその場に体が落ちて行く。

 それでも目先の二人から遠ざかろうと、手の力だけで後方へと下がって行こうとする。

 一心不乱に手を動かし、周りに置いてある物にぶつかりながらも、下がって行く。

 そして、遂には壁に背を打ち付けて、それ以上は下がれない所まできた。


 「こないでくれ、こないでくれこないでくれ!!??」


 もう下がれないというのに、それでも壁に背を強く打ち付けながらも下がろうとする。

 鈍い音が、家の中に反響していた。


 「なんで逃げるの、零さん? アタシ達は零さんを迎えに来たんだよ❤」

 「別に怒ってなんか無いし、何もシないよ? だから大人しくして? ……ね❤」


 ――――――ギィッ


 家の中に上がり込み、近づいてくる。


 ――――――ギィッ


 足音がどんどんどんどん、近く聞こえてくる。


 ――――――ギィッ


 「こないでくれ、こないでっ、こないでくれぇぇ!!??」


 ガクガク震え、自分の体の一部では無くなったかの様に言う事を聞かない脚を引きずりながら、床を這って部屋の隅へと逃げて行く……。

 半開きになった口から必要以上に空気が逃げて行く。

 見開いた目から、涙を流している。

 惨めな姿を見られても良い……だから誰か……誰か助けてくれ。

 助けを言葉にする事もできず、口からは悲鳴しか出せない。

 そして、部屋の隅にまで逃げた所で――――――もう何処にも逃げる事はできなくなった……。

 行き止まりの壁に触れた瞬間、体が反転させられ、仰向けにされてしまう。


 「つっかま~えたぁ❤あはは、零さんの匂いだぁ❤」

 「もう鬼ごっこも終わり❤遊びに来たんじゃないんだよ? 零さん❤」


 手足を押さえ付けられて、自由を奪われる。

 俺を見下ろす二人の顔が、近づいてくる。

 頬を赤く染めた顔が。

 クスクスと笑いながら。

 ――――――近づいてくる。


 「こないっ……!!? ごめんなさい!! ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、ごめんな……ぁ」


 恐怖は限界を超えていた。

 生まれて初めて、気絶というのを経験した。

 必死に謝り続けた俺の意識は、そこで途絶えた……。

 薄れゆく意識の中、唇に柔らかいものが触れた感覚だけを最後に――――――。


 「あははははあはは❤」

 「えへへへへえっへへ❤」


 ようやく見つけた愛おしい人を見つめながら笑う二人の声が……男の悲鳴の代わりに反響していた――――――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 人気の双子アイドルユニット、「Wegeminy」。

 彼女達が長期の休暇を得て活動を再開したニュースは、特に若者を中心にSNSなどで拡散されて行った。

 その歓喜に包まれる声の中には、女優の数限一臨……そして、その娘でありアイドルの数限二咲の活動再開を今かと待ちわびている人の声もあった。


 「んぅぁ❤あはは❤零さん、愛してるよ❤」


 新品の特大サイズのベッドの上。

 一糸まとわぬ姿で、愛する人との幸せを口にする少女。


 「えへへ❤んんぅ❤愛してるよ、零さん❤」


 さきほどの少女と瓜二つの顔をしたもう一人の少女。

 顔だけでなく、一糸まとわぬ姿と、愛する人との幸せを口にする所も瓜二つだ。

 ――――――そして、その二人の少女の真ん中には男性。

 枯れ切っているのか、小さな涙の粒を流している。

 動く気力も無いのか、それとも少女達の手足の拘束から逃れられないのか、ピクリとも動かない。

 その男性の両手は少女達に取られ、愛おしそうに微笑む少女達のお腹をさすらされている。

 時折ピクリと動く男性の口元が動いている様に見えるが、何を言っているのか……聞き取れない。


 ―――ごめん―――なさ―――い―――


 これが与えられた代償、罰、運命。

 もう自由なんてものは無かった。

 愛を向ける二人の少女と、愛を向けられる男性だけがそこにいる。

 男はまだ、こう思っているはずだ。



 ―――――――――――――――「カノジョ達の愛は行き過ぎている」……と。

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カノジョ達の愛は行き過ぎている toto-トゥトゥ- @toto-

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