賢人ジュークボックス

晴丸

第1話

世界は未曾有の天変地異に見舞われ、日本では地震予知が深刻で差し迫った問題となっていた。


数週間、あるいは数日おきに起こり続ける大地震。

さらにそれに付随して発生する火山の噴火、津波、土砂崩れ。

あらゆる研究者が様々な手を使って地震の予知を試みたが、加速度的に荒れる地球の環境変化に追いつけず、人々は為す術もなくただただ怯えることしかできなかった。


そんな中、私はお父さんが作った変な機械の相手をしている。

父は、優秀なんだかよく分からないけど科学者で、地震予知の研究をしていた……らしい。

らしいというは、父親の仕事なんて正直興味なかったので、後々人から聞いた話だから。

ただの風変わりで奇抜なおっさんだと思っていた父が、最後に作った機械。

それが今私の目の前に鎮座する『賢人ジュークボックス』だ。

……なんだそれって?

わかる。私も聞いたときはそう思った。めちゃくちゃ頭の悪そうな名前の機械。

ジュークボックスという名の通り、見た目としてはボーリング場なんかに置いてあったジュークボックスそのまんまだ。

ただ違うのは、これはボタンを押すと、古今東西のあらゆる賢人、つまりは頭のいい人たちを、疑似人格として再現できるということ。さらには、その人格同士を掛け合わせて未来の賢人までもを作り出すという。

お父さんは「俺の知恵だけじゃどうしようもないからみんなの知恵を借りればいいじゃんね! ワンフォーオール、オールフォーワン!」とかなんとか言ってた。

本人は完成させた後に、地震で倒れたこの機械に押しつぶされて死んでしまった。そこで私が、父に代わって地震予知の研究をすることになったのだ。仕方なく。


といっても、私は素人なのでちんぷんかんぶん。

とりあえず、この機械でいろんな賢人と話しをして、なんとかする糸口を探している。まぁぶっちゃけ暇つぶしがメインなんだけど。

ここには私一人しかいないので、話し相手が欲しいのだ。


だから私は毎日ランダム再生で、誰かしらと話をしている。

今日もご飯を済ませ、さっそくボタンを押してみた。

ウィーン、とディスクが移動してくるくると回転し、賢人のホログラムが映し出される。多分このディスクとか演出だけで、実際はSSDなんだけど。


そうして映し出されたのは、どこの誰とも知らない青年だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

賢人ジュークボックス 晴丸 @haremaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る