第19話®️
涙は人を落ち着かせ、混乱した頭を整えてくれる。
彼は冷静さを取り戻し、また、落ち着いた口調で話し始めた。
「トラベルの授業中、僕は少女にトラベルの教科書を渡し、まず、原理を理解してもらうため、先生の話を聞いてもらった。その間に僕は目的地を思い描き、そこへ行くほんの先の未来を思い描いた」
それがトラベルの基本原理なのだろう。
自分が思い描いたほんの先の未来を、ここへどう引き寄せるのか。
引き寄せる為の精神的な練習が必要なのだろうと私は思った。
「結論から言えばその日、僕達はトラベルを成功させた。目的地に行き、出発地点に帰って来れるようになった。ほんの一瞬でね」
「最初に僕が成功した時、少女は授業を受けていたので、それを見ていなかったと思う」と、彼は少し残念そうに言った。
その日のうちに何度もトラベルを成功させた彼は、引き寄せる為のコツを掴んだ。
そして少女にトラベルのコツを教え、2人して成功させた時、既にトラベルの授業は終わり、校庭には彼と少女の2人しかいなかった。
「私、できたわ!」少女は弾けるような笑顔で彼の手を取り「ありがとう!」と言った。
午前中はご丁寧にきちんと昨日の授業を受けていた2人だが、別に受ける必要もないと笑いあい、午後からはずっとトラベルの練習ばかりをしていた。
とうとう2人は、手を繋いで全く同じ場所に到着できるまでになった。
「ねえ…トラベルできるようになったのなら、今夜は私の祖父母の家に一緒にいかない?あそこは今朝まで大丈夫だったし…」少女はそう言うと何かに気付いたように少し口を閉ざした。
「…私、祖父母の家に行ってみる…まだあの影の影響を受けていないか見てくる。様子を見てすぐに帰ってくるから、ここで待ってて」
少女はそう言うと、彼の返事を待たずに、すぐに消えた。
少女の祖父母の家は、少女の頭の中にしかない。
彼にはその場所は分からない。
追いかけようにも追いかける事はできないのだ。
彼は少女に言われたまま、その場で少女の帰りを待つしかなった。
shadow @kukuli
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