第19話 最後の宴③

 聖王国の都市カリンシャの地下の迷宮へと逃れたアズロ達の宴会は、なんだかんだで二日目に突入していた。


 その宴会は、お互いの慰労を労い、お互いの英気を養う。


 ―そんな和やかな飲み会だった。


 

しかし、そんな空間をぶち壊す『ヤツ』が現れる―



オオカミの皮を被ったオオカミが―






「なあ、俺の酒を飲んでくれよぉ。ガガやん。ねぇ。ねぇ。」



「あ、ああ・・・。俺っちは十分、飲んでるよ。」



「ええー。つれないなぁ。元々、ガガやんが持って来てくれた酒じゃん。もっと、もっと、飲んでよ。俺も飲むからさぁ~。」



「・・・・わかったよ・・・。」



 そう言うと、ガガはその『ヤツ』に向かって、コップのように使っている壺を差し出した。



 すると、今まで上機嫌であった『ヤツ』は、顔を真っ赤にして突然、怒り出す。



「ちょっと、ガガやん。いくら、なんでもこれはないんじゃない‼」



『ヤツ』は、激おこぷんぷん丸状態となり、ガガを責めた。



「え? 俺っち、なんかマズった⁉」



 ガガは、『ヤツ』に気を使いながらそう言った。




「『マズった!?』じゃないよ!! 興ざめだよ!! ガガやん。


 宴会のルールがなってないよ‼」



「『宴会のルール』って、どういう事でしょうか・・・?」



 ガガはさらに気を使いながらそう尋ねる。



「だって、まだ、酒、残っているじゃん。壺の中に!!


 こういう時は、酒、壺の中の全部、飲み干してから盃を差し出すのが礼儀じゃない?」




「で、でも、アズロっちの酒樽の中にも酒、残ってるよ?」



 暴走している『ヤツ』—いや、アズロに向かって、ガガは一言物申した。



「俺はいいんだよ。俺は勧める側だから。」



「ええーーーー!! アズロっち、それは、どうなのよ!!


 それって、不公平じゃない⁉」



ガガは、完全に悪酔いしているアズロにツッコむ。



「・・・・・・・・・・・・・。」



そのガガのその言葉に、アズロは沈黙する。


そして、神妙な面持ちで一言物申す。



「ガガ。お前は、酒を飲む資格はないな・・・。」



「それって、どういう事ーーーーーーーー!!」



 理解不能なガガは、思わず叫ぶ。



「ガガ。お前は判っていないかもしれないが、酒は、勧めたもん勝ちだ。


 つまりは、勧めなかったお前の負けが確定しているって事だ。」



「ええーーーーーーー!! 負けってどういう事ー----‼


 しかも、俺っちが酒を飲む資格がないって事とどう関係してるの?」



何も判っていないガガは、思わずツッコむ。



「・・・ガガ。


 酒っていうのは、飲んだらどれだけ自分を捨て去れるかで勝負が決まる。


 つまり、俺は、今、自由だ。

 

 だから、今の俺は、空をも飛べる・・・。」




「・・・・・・・・・・・・・・・。」




「それって、さらに、どういう事ー---------------------------------!!!


 アズロっち! どうかしちゃってるよー-------!!!」


ガガは思わず叫ぶ。





「ああなったら、アイツからは逃げるのが得策じゃよ。」


そうガガの耳元でジジイは呟いた。


そして、ガガの肩を掴み、アズロから引き剝がすように離脱し、己が飲んでいた陣地に連れ込む。


そこには、ガラムがいた。


「お疲れ~~。どう、面倒くさかったでしょ!」


ガラムがガガを労った。


「どうもこうもないよ! アズロっち、どうしちゃたの?


 いつもは、あんなにカッコいいのに…。 まるで別獣じゃない⁉」


「なんじゃ別獣って、アイツはいつもあんな感じじゃろうが?」


「そんな事ないじゃん。アズロはいつもはスゴイカッコいいし、俺っち達を導いてくれるリーダーじゃん‼」


 ガガのその発言を聞いて、ジジイとガラムは目を丸くする。


 そして、大声で笑った。


「フィフィフィヒャヒャヒャハハハハハー--!!」


「クスクスクヒィィィッィィィイー---‼」



そんな今まで聞いたことがない別亜人の爆笑にガガは一瞬、戸惑う。


ただ、自分が尊敬する獣物が笑い者にされていると感じ苛立った。


「ジジイっちとガラムっちは、アズロっちをリーダーと思ってないのかよ。


 なんでだよ⁉


 アズロっちはあんなに頑張ってるんじゃん‼


 俺っち達の為に、いろいろ考えてくれているんじゃん‼


 アズロっちがリーダーだからここまで俺っち達は生き延びてこれたんじゃないの⁉」



そのガガの言葉に、ジジイとガラムは沈黙した。


―しかし、その沈黙の後…


「フィフィフィヒャヒャヒャハハハハハー--!!」


「クスクスクヒィィィッィィィイー---‼」


ジジイとガラムは再度、大笑いをした。



「なんが、そんなに可笑しいの‼


俺っちの間違った事は何も言ってないじゃん‼」


ガガは、ジジイ達の笑い声にブチキレた。


―それは、自分が尊敬するアズロっちを笑われたから―



ガガは、アズロをとんでもなく尊敬していた。


(だって、アズロはこんな俺っちを仲間にしてくれた。


こんな死んで当然のこの俺っちに・・・・)



―蛇身人ガガは、自らの過去を回想する。










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英雄王の凱旋 トミサト @tomysato

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