ドキドキ! 名探偵という確実に死人がでるツアー!

ちびまるフォイ

犯人を名指しすることがベストエンディング

「え!? こんなに安くていいんですか!?」


「ええもちろん。食事もついてこのお値段です」


「だってここ一流のホテルですよね!? それに大人気の観光リゾート地!

 いやあ、探してみればいいチケットあるもんだなぁ」


まとまった休みが取れたので旅行の計画を立てた。

まるで神の啓示でも受けたようにうってつけの激安チケットを手に入れた。


空港で買った花のレイを首にかけてウキウキ気分でいたが、

島に向かうためのフェリーで激安の理由を知った。


「ちょっと、にじめちゃん、そんなにはしゃがないでよ」

「わかってるよ、よゆき。俺がいるからこのツアーに参加できたんだろ」


(あ、あれは今話題の薬を飲まされて体を小さくされた幼馴染と高校生探偵!?)


激安でチケットが買えた理由がわかった。

この旅行は名探偵といくツアーだった。


すると、どこからか入れ替わり立ち替わりで乗船客が面通しのごとくやってくる。


「やあ、私は出版業を営んでいる真田弥一郎」

「私は大学生の吉田千代。よろしくね、名探偵」

「フン。俺はチューチューバーの"ぽやぽや"だ」


なぜ自己紹介をいちいちする必要があるのかは

きっとお互いの宗教上の理由から理解の溝がうまることはないとわかっていた。


「……」


そして、フェリーには包帯で顔をぐるぐる巻きにし

目深にかぶった帽子の男が仮面舞踏会のような仮面をつけて座っていた。

おそらく乗務員の中には人を怪しむという概念がない育ちのいい人が多いのだろう。優しい世界。


(まずい……この流れは非常にまずい!!)


せっかく羽を伸ばしにきたリゾートで待っているのは血なまぐさい事件のかほり。

ともすれば俺が第一被害者にもなりかねない。


なにせ探偵あるところに事件はある。


特に誰の怨みを買っているわけでもないが、

ふとした拍子に決定的な証拠を見つけてしまったがために命を落とす人など星の数ほどいる。


なんとしても、事件を起こしてはならない。

やっと手に入れた大型連休のためにも!!


目的地の洋館につくまでになぜか夕食の席を全員で同じテーブルに取らされる。

濃厚接触者としてリストアップされれば逃れようもない。


「……でさ、実はこれから向かう洋館にはある噂があるんだ」

「噂?」


誰も求めていないのに始まる殺人事件の伏線伝承。


「オペラ座の変人の話だよ。かつて恋い焦がれたヒロインを舞台に上がらせるために

 他の舞台女優を手にかけようとしたら、なんかいい感じに演技が評価されて

 結果的に自分がステージに上って愛するヒロインに嫉妬されて顔を焼かれた変人」


バカじゃん、という顔をしたのは俺だけだった。

他の人達ははじめてホラー映画を見た3歳時のように純粋に怖がっている。


「さあ、つきましたよ。ようこそ変人館ホテルへ」


頭痛が痛いみたいなネーミングに恐怖を覚えた。

その翌日、恐れていたことが起きた。


「きゃあああ!!!」


目覚ましアラームより性格な名探偵の幼馴染の悲鳴で叩き起こされる。

おそらく人が死んだらそういう生体センサーが検知するのだろう。


「オーナー……。死んでる……!」


「一体誰が!?」

「ここには私達しかいないのよ!?」

「早く警察へ!!」

「ダメです! ここは絶海の孤島なんで電波は通じないんです!」

「もう嫌! はやく家に返して!」

「急激な天候悪化で船は出せません!」

「それじゃ私達、ここに閉じ込められたっていうの!?」


「なんでこんな立地にしたんだよ……」


あれよあれよと阿吽の呼吸で形成されるクローズドサークル。

電波通じない孤島に宿泊施設作る神経を裁きたいが現代の法律整備が追いついていないらしい。


「オペラ座の変人よ!! きっとあの亡霊が殺したんだわ!!」


「いや、それは違うね。これはれっきとした殺人事件だ」


どや顔で仕切り始める高校生探偵(自称)に恐怖を覚えた。

彼が推理を始めるということは、すでに俺は殺人事件の舞台にキャスティングされてしまっている。


この名探偵が犯人を追い詰めるほどに、より犯行へと走らせてしまうかもしれない。

なんとしても推理などさせて貯まるものか。


「待ってください! みんなの交友関係を聞いておきましょう!!」


「それより昨夜のアリバイを」

「交友関係を!! 恨みとか聞いておきましょうね!!」


全員を集めてお互いに面識があるかないか。

俺は持ち前の話術で本来は犯人が確定したときにするであろう

「実はあいつが憎かった」という魂の自白を引き出した。


「はい、ということでみんなお互いに実は知り合いで

 偶然ここへ集められたかに思えていたけれどそれは嘘で

 本当は10年前の同窓会で死んだ友達により集められたということです」


「「「お、おう……」」」


「あとどうせ犯人じゃないくせに、

 いちいち怪しい行動取るのが面倒なので

 その包帯と仮面も撮っちゃいます」


「やだー。すっぴんなのにーー」


包帯ぐるぐるまきの男の正体も明かしてあらゆる事件の可能性をゼロにする。


「バカバカしい。俺は自分の部屋で休ませてもらうぜ!」

「そうよ。この中に殺人鬼がいるのにいっしょの部屋なんていられないわ!」


「あ、みなさんの部屋の鍵穴にはボンド詰めておきました」


「「 悪質金融の取り立てか!! 」」


全員が常にお互いの監視をしながら嵐が収まるを待つという展開へと持ち込む。

しかし活動休止を宣言してもなお人気の嵐の勢いは留まることを知らない。


「やはりこんなところで待機しても疲れるだけだ。みんな一度自分の部屋に戻って……」


「ほらそういうこと言うーー!! なんで名探偵はそうやって殺人されやすい環境づくりに務めるんだよ! 金銭の授受でもあるのか!?」


「俺はみんなのためを思って……」

「だったら部屋に返すなよ!!」


しかし疲れているのは本当で独裁しようとする俺に反発し、

それぞれ空き部屋へと戻ってしまった。


それでもすでに殺人の動機は洗いざらい話させたので、

他に潜んでいる客が居ないか宿泊名簿を確認し、隠されている通路を探し、

犯人が使いそうなオペラ座の変人のコスプレグッズがないかをくまなく探した。


「……よし、大丈夫だな」


念には念を入れていたはずだが、それでも翌日に定時で殺人は起きてしまった。


「きゃああああ!!」


あれだけ死体を山ほど見てもまだ慣れないのか名探偵の幼馴染は死体を見て気絶。

そのうち自転車のチリンチリンでも気絶できるだろう。


「やっぱり殺人は起きたじゃない!!」

「誰だ! いったい誰が殺したんだ!!」


チラりと名探偵を横目で見るが、じっと考えているポーズのまま動かない。

おそらく幼馴染が復活してなにげない一言からひらめきを得るまでは推理を始めない構えのようだ。


「あんた、昨日から全員を閉じ込めたり、宿泊名簿を漁ったりしていたそうじゃない!」

「隠し通路も探しているっておかしい!」


「え!? 俺!?」


「そうだ! 全員がここに呼ばれたわけとかも聞きまわっていたし、お前が犯人だ!」


「犯人が自ら注目を集めるようなことするかーー!!」


俺の弁護のかいもなくパニックに陥った人間はとにかく安心したい一心でときに極端な行動に出る。

イスに縛り上げられた俺は身動きが取れなくなった。


「これでもう大丈夫だ」

「安心して夜も眠れるわ」


体の全細胞が危険信号を鳴らし始めた。

おそらく規定人数が殺されるまでは名探偵は推理ができない。

俺が動けないのでは未然に殺人を防ぐこともできない。


いったいどうすれば……。


「……待ってくれ。すべてを話すから、この食堂に全員を集めてくれ」


「ついに話す気になっったのか!」


「ああ、そうだ。これからすべてのトリックと犯行動機などを洗いざらい話そう」


食堂に全員が集まり、かたずを飲んで俺の話を待った。

身動きひとつとらず全員が俺の話に耳を傾けている。


「みんな集まったな。それじゃ今回の事件のあらましを話そう。

た だし、俺の話を遮ろうとするやつは犯人だ。

 自分の犯行がバレるのを避けたいからな。

 すべてを話し終えるまで誰ひとりここを離れてはいけない。

 逃げ出すということは都合が悪くなったということだからだ」


「わかった、それで事件の真相を教えてくれ」


「……すべての発端は旧石器時代だと言っても過言ではない。

 当時、人間は狩猟生活を続けていてやがて火を扱うようになってから農耕がーー」


 ・

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やがて、俺の話が人類の宇宙への進出に差し掛かったときだった。

耐えきれなくなった名探偵が叫んだ。


「もう限界だ!! あんた犯人がわかったんじゃないのか!?

 ずっと話しているばかりで真相にいっこうに近づいてないじゃないか!」


「いやもう真相にたどり着いている」


「何言ってる? あんたトリックのひとつも明かしていないし、

 犯人だってなにひとつ特定できてないじゃないか」


「ああ、でも、窓の外を見てくれ」


名探偵はカーテンをあけて窓の外を見た。

食堂に集められて犯行のしようもない状態で続いた長話しの結果、

すっかり夜は明けて嵐は去り、遠くからは連絡船が向かってきていた。



「もっとも大切な真相はただひとつ。我々が助かった、ということだ!!」

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